Apple成功の秘訣――「デザイン経営」が新たなイノベーションを生み出す国内でもベンチャーが活用へ(1/2 ページ)

オートデスク・ジャパンは、東京都内で同社のユーザー向けイベント「Autodesk University Japan 2014」を開催。意と匠研究所の代表を務める下川一哉氏が、Appleの製品や日本国内のベンチャー企業を例に、デザイン経営とモノづくりの現場におけるデジタル技術の活用についての講演を行った。

» 2014年09月05日 10時00分 公開
[陰山遼将,MONOist]

 米国のCADベンダーAutodeskの日本法人であるオートデスク・ジャパンは2014年8月29日、東京都内で同社のユーザー向けイベント「Autodesk University Japan 2014」を開催した。基調講演では、意と匠研究所の代表を務める下川一哉氏が「デザイン経営のインパクトとそれを支えるデジタル技術」というテーマで、米Appleの製品や日本国内のベンチャー企業を例に、デザイン経営とモノづくりの現場におけるデジタル技術の活用について語った。

“デザイン経営”を体現するApple

意と匠研究所 代表の下川一哉氏

 下川氏はデザイン経営について、「さまざまな定義があるが、私は経営者がデザインを経営資源として捉え、それを用いてイノベーションを行い、価値創造を行うことだと考えている」と説明。続けて「デザイン経営を最も分かりやすく体現したのがAppleではないか」と話し、Appleの製品デザインについて解説した。


Appleの製品デザインの特徴(左)と「iPhone」に使用されている各パーツ(右)(クリックで拡大) 出典:意と匠研究所

 同氏は2014年3月まで日経BP社が発行するデザイン誌「日経デザイン」の編集長を務めていた。その当時、Appleは基本的に製品についての個別取材を受け付けていないため、新製品が出るとすぐに購入して分解したという。「このデザインを実現するために、内部の構造はどう設計されているのか。そこにAppleの製品デザインに対する意思が隠されていると考え、ひたすら分解を行った。Appleの製品は細かいパーツや細部までこだわりを持って1つ1つとても丁寧に作っている」(同氏)。

感性品質と完成度の高さの追求

AppleのPC「MacPro」の底面パーツ(クリックで拡大) 出典:意と匠研究所

 同氏はさまざまな製品を例に、Appleがプロダクトの完成度を追求する姿勢を紹介した。例えばAppleのPC「MacPro」の底面部分は、型抜き技術では実現できない、複雑な形状で作られている。同氏は「コストが掛かってもこのデザインを実現させるというAppleの意思がここに表れている」と説明する。また、Appleは製品の表面処理にまで徹底したこだわりを持っており、多くの製品はゆがみがなく、蛍光灯にかざすと表面に一筋の光が通るという。

Appleの製品の表面にはゆがみがなく、光にかざすと一直線の光の筋が通る(左、中)。同社は製品パッケージのデザインにもこだわっている。iPhoneが梱包されているパッケージ1つ当たりの製造費用は約600円だという(右)(クリックで拡大) 出典:意と匠研究所
Appleのデザイン経営がもたらした意味(クリックで拡大) 出典:意と匠研究所

 同氏はこの他に、AppleがiPhoneやiPadに搭載しているiOSのユーザーインタフェースや、製品を梱包(こんぽう)するケースのデザインにも注力しており、製品とユーザーの接点にもこだわっている点を紹介した。それを受け、Appleが体現するデザイン経営の意味を「Appleは工業製品に高度な技術を利用した工芸性を持ちこみ、徹底したこだわりを持って製品を開発している。そして、製品を購入したユーザーに豊かな体験をもたらすことで、高いブランドロイヤルティーを獲得することに成功した。デザイン経営とは、経営とデザインと技術の相互補完的イノベーションであると捉えることができる」と説明した。

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