スポーツカー冬の時代、共同開発は切り札になり得るかトヨタとBMWだけじゃない

トヨタ自動車とBMWが締結した提携内容には、中型スポーツカーの共同開発が含まれている。この他にも、トヨタ自動車と富士重工業、マツダとフィアット、ルノーとケータハムなど、スポーツカーを共同開発する事例が増えているが、スポーツカー冬の時代を乗り切るための切り札になり得るのだろうか。

» 2013年01月25日 18時25分 公開
[朴尚洙,MONOist]
協業に関する正式契約を締結するトヨタ自動車とBMWの経営陣

 トヨタ自動車とBMWは2013年1月24日、長期的な戦略的協業関係構築の一環として、「燃料電池システムの共同開発」、「スポーツカーの共同開発」、「軽量化技術の共同研究開発」という3つのテーマに関する正式契約を締結したと発表した。

 両社は2011年11月の提携発表の後、2012年6月には提携拡大のために先述した3つのテーマと「電動化に関する協業」についての覚書を締結している。今回の正式契約には、電動化に関する協業は含まれていないが、協業内容をまとめて正式に契約する方針だという。

協業に関する正式契約を締結するトヨタ自動車とBMWの経営陣 協業に関する正式契約を締結するトヨタ自動車とBMWの経営陣 出典:トヨタ自動車

中型スポーツカーは「スープラ」と「Z4」の後継モデル?

 3つのテーマの中で、市場投入時期が最も早いのが、共同開発のスポーツカーである。トヨタ自動車副会長の内山田竹志氏は、「これぞ21世紀のミッドサイズ・スポーツカーだと言えるクルマを目指し、共同で開発していく」と語る。2013年末までに共通のプラットフォームを作り上げるためのフィージビリティ・スタディ(本格的なプロジェクト実施前の調査活動)を完了させた後、スポーツカーの共同開発に向けた将来のさらなる協力について検討するとしている。軽量化技術の共同研究開発の成果となる繊維強化樹脂は、このスポーツカーの共通プラットフォームに織り込む予定である。

 内山田氏の言う通り、トヨタ自動車とBMWが共同開発するのはミッドサイズ・スポーツカー、つまり中型スポーツカーである。トヨタ自動車は、富士重工業と小型スポーツカー「86」を共同開発しているが、中型スポーツカーとなるとさらに1クラス上になる。エンジンの排気量は、86の2l(リットル)に対して、3l前後が想定される。

 具体的には、トヨタ自動車であれば2002年に生産終了した「スープラ」、BMWであれば「BMW Z4」の後継モデルになるとみられる。

スポーツカーは共同開発が主流になる?

 自動車業界では、トヨタ自動車とBMWや、トヨタ自動車と富士重工業の他にも、スポーツカーの共同開発に向けた取り組みが進んでいる。

 マツダとFiat Group Automobiles(フィアット)は2013年1月18日、マツダがフィアット傘下のAlfa Romeo(アルファ ロメオ)向けに、オープンタイプの2人乗りスポーツカーを開発・生産する事業契約を結んだと発表した。アルファ ロメオ向けのスポーツカーは、マツダの次世代「ロードスター」をベースに開発することになる。量産開始時期は2015年である。マツダとアルファ ロメオは、それぞれ独自の外観デザインを行い、エンジンも異なるものを搭載する予定だ。

 Renault(ルノー)も、2012年11月に、英国のスポーツカーメーカーCaterham Cars(ケータハム)と、スポーツカーを共同開発すると発表。ルノーのスポーツカーブランド「Alpine(アルピーヌ)」の名称を引き継ぐ、アルピーヌ・ケータハムという合弁会社を設立し、2016年までに共同開発のスポーツカーを完成させる方針だ。

 2000年ごろから、スポーツカーの売れ行きが伸び悩み、2002年には先述した「スープラ」の他、日産自動車の「スカイラインGT-R」や「シルビア」、マツダの「RX-7」などが生産を終了。スポーツカー冬の時代と言われるようになって久しい。

 量産規模を確保できないスポーツカーを共同開発する狙いは、開発と生産を可能な限り高い効率で行うことにある。赤字にならない程度でスポーツカーを販売できるのであれば、自動車で走る喜びを重視する顧客層を中心に、「スポーツカーを開発している自動車メーカー」としてのブランド価値を高められるというわけだ。

 スポーツカーを共同開発する場合の最大の問題は、両社が販売する車両の差異化になる。例えば、86と、86の姉妹車である富士重工業の「BRZ」の場合、プラットフォームやパワートレインなどが共通であるものの、外形デザインやインテリア、サスペンションの設定などによって差異化している。トヨタ自動車とBMWの中型スポーツカーも、プラットフォームだけでなくパワートレインの共通化も目指しているので、差異化の手法は同じようなものになるとみられる。

トヨタ自動車の「86」富士重工業の「BRZ」 トヨタ自動車の「86」(左)と富士重工業の「BRZ」 出典:トヨタ自動車、富士重工業

 マツダとフィアットのロードスターベースのスポーツカーの場合、それぞれ独自のエンジンを搭載するので、開発と生産の効率化を最大化できないものの、差異化は容易になりそうだ。

 ただしスポーツカーは、ブランド価値や外観デザインとともに、プラットフォームやパワートレインに左右される走行能力も重視される商品である。共同開発が、スポーツカー冬の時代を乗り切るための切り札になり得るのかどうか、今後の展開を見守る必要がありそうだ。

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