サムスンとアップルの訴訟合戦から学べることメカ設計者のためのTRIZ的知財戦略(1)(2/2 ページ)

» 2012年10月10日 11時00分 公開
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これからの知財管理に求められる新たな考え方

 これまで企業は「特許権」や「実用新案権」を重視してきました。私は電磁リレーの開発をやってきましたので、例えば「接点の形状を工夫する事で寿命を延ばす方法」や「電磁石の構造を工夫して、より小型で低消費電力なもの」を開発し、特許化してきました。それらはいずれも「改善したい項目=問題」が存在し、その手段を形状的に実現させるという思考パターンといえます。

 一方で、先のサムスンとアップルのスマートフォンに関する訴訟では、基本的に「形状パテント」が大きな争点になっているように感じます。それが故にどちらかが「本物」で、片方が「模造品」のレッテルを張られるという状態が、企業におけるブランドイメージを大きく毀損(きそん)するというトレンドができているように思います。

 一般消費者から見たら、例えばTVは横長な形状で下にスタンドが付いたものであり、その基本的な形状が争点になることなどはなかったように思います。洗濯機なども同様です。しかし、スマートフォンという新しい市場を先に開拓した企業にとって、「スマートフォンらしさ」とは、その形状を含む総合的な商品として権利化しておきたいのでしょう。要はこの「何々らしさ」というブランド価値が、サムスンとアップルとで争われていると言っても過言ではありません。ですから、これから「意匠」も含めて知的財産権取得の総合的な戦略を立てる必要があるのではないでしょうか。

 さらには、新日鉄の訴訟で分かるように、これまで「ノウハウ」として秘密管理されていたものも、従来以上に厳しく統制管理されることになるでしょう。その方法をどうするのか? それも含めて、さまざまな問題の解決策を考えるための思考力とその手法としてのTRIZ、およびTRIZで生み出したアイデアを知財としてマネジメントしていくための仕組みづくりが重要になってくるものと思われます。その仕組みとして私たちが考えている姿を図4に示します。

図4 TRIZと知財の一体型マネジメントのイメージ

企業の知財部門と技術者の発想をマネジメントする

 ほとんどの企業には、技術者の発明を管理するために知財部門があります。知財部門は、例えばクロスライセンスやロイヤルティー(特許使用料)などの管理とともに、技術者の発明を目利きするという大切な職務もあります。しかし、多くの企業ではその本来の「目利き」の役目まで手が回らないのが実態ではないでしょうか?

 一方、技術者はというと知財部門から押し付けられたようなネガティブ感情で特許ノルマをとらえているために、年度末まで特許の作成がままならないことが多い。もちろん、開発業務が多忙で特許提案書の作成まで手が回らないという実態だと思います。

 ここに知財部門と開発設計部門の対立の構図ができあがりますね……。

 私は、本来知財部門と開発設計部門は、両方ともキャッシュを生むための利益の源泉だと考えています。開発設計部門は、市場に魅力的で競争力のある商品を上市することで「利益(キャッシュ)」を生み出す。片や、知財部門は開発設計部門が出したアイデアをさらに魅力ある発明にし、ロイヤルティーやクロスライセンスの取得で「利益(キャッシュ)」を生み出すというわけです。

 そのつなぎの役目をするのが、TRIZであり知財マネジメントなのです。私が考える知財マネジメントには2つの側面があります。1つは、既存のパテントマップのすき間を狙うような発明の取得(権利化)ではなく、いわゆる「新たに創造したシステム」へ集中的な特許ポートフォリオを築くというものです。もう1つは、秘密管理も含めた社員教育としての知財リテラシーの向上を目指した知財マネジメントです。次回、これらの詳細について述べていきます。

Profile

桑原 正浩(くわはら まさひろ)

熊本県生まれ。1985年鹿児島大学卒業。KYB(カヤバ工業)株式会社、オムロン株式会社で研究開発や商品開発に勤務後、技術問題解決コンサルタントとして独立。現在は、株式会社アイデア、コンサルティングセンター長。実務型TRIZコンサルタントとして、国内外企業の技術開発テーマの創造的問題解決のコンサルティングに携わる一方、大学や産業振興財団の中小企業支援育成事業、日科技連の次世代TQM構築PJなどでも活躍中。「TRIZで日本の製造業を元気にする」が合言葉。

著作物に「効率的に発明する:ロジカルアイデア発想法TRIZ」(SMBC出版)、「使えるTRIZ」(日刊工業新聞社「機械設計」連載)、韓国では「TRIZによる論理的問題解決:アイデアレシピ」(韓国能率協会出版)がある。ブログ「TRIZコンサルの発明的日常閑話」

Twitterアカウント:@kuwahara_triz



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