たった8人で始めた企業が、5年後に世界トップ5の企業になろうとしている。成長著しい中国メーカーに聞いた。
シーメンスPLMソフトウェアは2012年4月19〜20日、中国山東省青島で、中国のユーザー企業担当者を集めたカンファレンスを開催した。19日には現地企業へのインタビューを行ったので、本稿ではその模様を紹介する。
今回、取材したのは中联重科股份有限公司(以降、Zoomlion)とFoton Lovol International Heavy Industry(以降、Foton Lovol)の2社だ。
Foton Lovloは、1998年8月に同社の前身であるWeifang Harvesting Machinery Plantを操業、現在は、建機、農機、3輪自動車などを製造している。
毎年10%以上売り上げを伸ばしており、2011年には約160億元(約2000億円)の販売益を得ている。同年、中国のトップ500企業ランキングで第64位を獲得しているという(同社、企業概要の情報による)。
同社は研究開発に注力しており、国内に4拠点(山東、天津、青島など)、国外ではイタリアに2006年から研究開発拠点を持っている。直近では日本にも研究開発拠点を構築しているという(同社Webサイトを確認してみたが、まだ日本の拠点所在地についての掲載はないようだ)。
「グローバルで統合された研究開発のシステムが必要であると考え、2003年からPLMシステムの導入を進めてきた。現在は海外の研究開発拠点の統合を推進している」(Foton Lovol CIO 李金良氏)
「PLM導入によって開発期間は3割ほど短縮できた。さらに開発コストで換算すると約4割の削減となっている。グローバル化が進む中で、事業の拡大と同時に、設計・開発のデータ管理をグローバル化に対応したPLMシステムに移行できた利点は大きいと考える」(李氏)
PLMシステム導入に際して、最も腐心したのはシステム側の問題ではなく、自社の業務フローの標準化だという。若い企業であってもこの点は日本と変わりはない。
「(PLMシステム導入に際しては)内部的な管理の問題が最も大きな障壁だった。14年ほどの若い企業ではあるが、それなりに各拠点の業務プロセスが異なっており、それらを調整して全社標準のプロセスを構築する作業が最も苦しかったところ」(李氏)
中国の製造業がITシステムの活用を始めたのは、本格的な経済成長を始めた1990年代以降といってよいだろう。欧米的なマネジメントプロセスの導入もこのころから浸透しだしたようだ。中国企業にとってタイミングが良かったのは、IT化や業務プロセスの標準化を推進する時期が、市場のグローバル化とほぼ同時期であったことだ。
「まだ設立から14年しか経っていないが、グローバル化と平行して研究開発体制を強化できた。もともと欧州で早くから拠点を持つなど、欧州のノウハウを取り込んできた経緯がある」(李氏)
同社も、以降で紹介するZoomlionも、ともに欧州(偶然にも両社共にイタリア)に研究開発拠点を持っている。プロセス標準化のノウハウの多くも欧州拠点からいち早く取り入れてきたようだ。
Zoomlionは1992年に設立された企業。今年(2012年)で20年目を迎える。
「設立当初はたった8人の技術者だけだった」(ZoomlionでITディレクタを務める張飛慶氏)
たった8人でスタートした同社は、20年後の今、2万8833人の従業員を抱える大企業に成長している(2011年末の人数)。このうち約23%に相当する6676人が研究開発に従事している*。
* 従業員数は2012年4月に同社が発表したIR情報を参照した。
同社の場合も、PLMシステム導入による設計・開発データ統合は、開発プロセスの効率化、標準化を狙ったものだ。導入後、40%程度の開発期間短縮という成果を得た同社では、現在、マーケティング情報の連携、ERPとの連携も推進している。また、サポート部門向けにモバイル端末からPLMシステムにアクセスする仕組みも取り入れようとしている。
「当社はIPD(Integrated Product Development)のマネジメント手法を導入している。製品開発は全てIPDをベースにしたプロセスで行われる」(張氏)
IPDのマネジメントプロセスは日本企業でも多くの大手メーカーが導入している。製品開発プロセスの標準化に際しては、スタンダードな手法の1つといえる。
今回取材した2社はいずれも若い企業だが、中国の本格的な経済発展のタイミングからスタートしたこともあり、初期の段階からグローバル展開を想定した手を打っている。この面で、モノづくりの歴史が長い日本や欧米企業よりもフットワークが軽い印象だ。
両社とも将来的な製品の付加価値向上に向け、現在も継続的にエンジニアリングチェーンの改善に投資を行っている。次の成長に向けた投資策を積極的に打てるのは、もちろん財務状況が良好であることもあるが、IT部門担当者が積極的に高度な仕組みを提供するSIerを採用していることも挙げられよう。事業規模が現在ほどでないころから、大企業と同等かそれ以上のシステム構築を進めている。
「世界でトップを狙うには、社内の研究開発環境も世界トップレベルのものを採用したかった」(張氏)
何よりも印象に残ったのは、いずれも若い企業だが既に世界市場を見た製品開発を行っていることだ。中国は巨大な国内市場を持つ。山東省だけでもその人口は約1億人にもなる。中国全土を相手にするまでもなく、省の中でビジネスを展開すれば十分に稼げるだけの市場が形成されつつある中で、彼らは果敢に世界市場を狙っている。
「5年後にはこの分野で世界トップ5に入ることを目指している」(張氏)
現段階では、建機業界の世界シェアは日本のコマツ、米キャタピラーの2強といわれる。トップメーカーを目指して研究開発のための投資を進める同社が5年後の業界勢力図をどう変えるか、注目したい。
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