前回も少し触れたが、レスキューロボットはまだ、研究開発の段階。Quinceは現場で活躍しているものの、まだ実用ロボットではなかった。今回は非常時故、実用化前のロボットを投入せざるを得なかったのだが、大学がロボットを製造して運用のサポートまで行うのは理想的な状態ではない。これは大学の役割ではなく、本来であればメーカーが担うべき仕事だ。
Quinceはまだほんの数台なので対応できているが、大学の研究室ではロボットを量産し、サポート体制を確立するのは難しい。東日本大震災の後も大きな余震は続いており、東海・東南海・南海地震も警戒されている。必ず来る次の大災害でレスキューロボットを本当に役立たせるには、もっと多数のロボットを実践的に配備する必要がある。そのためには、ロボットの実用化、商品化は不可欠だ。
技術面の課題はまだあるが、実用レベルのレスキューロボットが出来上がったとして、考えなければならないのは、そこからどうやって商品化につなげるのかということ。民間企業の場合は、ある程度の販売数が見込めなければ、商品化は難しい。当初は赤字であったとしても、それで続けられるのは、将来回収できる見込みがある場合だけだ。誰がレスキューロボットを買ってくれるのか。これがポイントとなる。
米国の場合は、軍事という巨大なマーケットがあるが、日本で軍需は期待できない。基本的にコンシューマ用途で使われるものではないので、B2G(Business to Government)やB2Bということになるだろうが、もし災害でしか使えないようなロボットであれば、使用頻度が低過ぎて、大量に導入するのは難しいかもしれない。
そこで、小柳副所長が提案するのは、「普段から使えるレスキューロボット」。例えば、平時は住宅の床下や下水道に入って点検に使われ、非常時にはレスキューロボットとして現場に駆け付ける。この場合、プラットフォームは共通化できるので、点検用か災害用かで、センサーを取り換えればいい。
「災害対応ロボットのマーケットは大きくないので、それを大きくするには、普段から何かに使えるロボットでないといけない」と小柳副所長。「マーケットが大きくならないと、メーカーは作ってくれない。作られないと利用されない。利用されないと進化しない」(同)という悪循環を、逆に回さなければならない。
ちなみに、Quinceについてはあるメーカーからライセンス生産の話が来ており、交渉中とのこと。もともと千葉市消防局で半年ほど試用してもらい、ユーザーからのフィードバックを得るなど、震災以前から実用化に向けた取り組みを進めてきたが、案外早く、実用化されるかもしれない。
大塚 実(おおつか みのる)
PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min
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