ロボットベンチャー・ZMPの自動車分野での取り組みは? 後編ではロボットカーのメリットや日本の課題などを探る。
日本発ロボットベンチャー「ゼットエムピー(以下、ZMP)」が自動車分野へ参入した狙いとは? 前編では「なぜロボットカーなのか」をZMPの谷口恒社長に語ってもらった。後編も引き続き、谷口社長のインタビューをお届けする。
ロボットカー(※)の普及によって、得られるメリットは何か。ニーズとして分かりやすいのは、まずは「安全」だろう。
※「ロボットカー」というものに明確な定義はないが、本稿ではセンシング技術やITなどによって高度にロボット化された自動車のこととして話を進めたい。そのため、自動運転/手動運転や、ガソリン車/電気自動車といった区別には特にこだわらないことにする。
人間は自動車を運転する際、かなりの部分を目からの情報に依存しているが、各種センサーによってこれを補強することができる。前方だけでなくて後方もチェックできるだろうし、可視光以外にも赤外線や電波まで利用できる。こういったセンサー情報を活用すれば、衝突の回避に役立つだけでなく、衝突が避けられなくなった状況でも、被害を低減するための手段を準備することができる。
前回のコラムでも紹介したように、既にミリ波レーダー、ステレオカメラ、赤外線センサーなどが実装されている例があるが、主に高級車から搭載されていることからも分かるように、普及への一番の課題はコストだ。ただ、今までの工業製品が皆そうであったように、普及が進めばコストダウンは加速するし、安くなれば買う人がどっと増える。こういったスパイラルに持って行くためのキーは「高齢化社会」だと谷口社長は言う。
「欧州で発売された自動車で、35万円程度の安全装置をオプションとして用意したところ、7割程度のお客さんが搭載することを選んだという例があります。特に高齢者は自分の運転を不安に思っています。ただ、それでも運転はしたい。お金はあるので、そういった装置で安全が担保できるなら買う。このようなニーズが顕在化しています」と谷口社長は述べる。
日本でも、スバルが低価格の運転支援システム「新型EyeSight」を発表して話題になった。プリクラッシュブレーキ、全車速追従機能付クルーズコントロールなどの機能を持つシステムだが、ステレオカメラだけで状況判断が可能になっており、10万円程度という低価格を実現した。このくらいで「安心」が買えるなら、お金を出す人は多いだろう。高齢者でなくとも、運転に苦手意識を持っている人も多い(筆者もだ)。
コストさえ抑えられれば一気に普及するだろうし、既にそういう段階になりつつある。エアバッグが当たり前の装備になったように、自動ブレーキなども搭載が増え、なおかつ安全機能が高度化していくというのが当面のシナリオになりそうだ。
もう1つのニーズは「環境」である。これには少し補足が必要だろうが、「ガソリン車を電気自動車にすれば問題が全て解決するかというと、話はそう単純ではありません。渋滞が大きな問題として残っています」と谷口社長は指摘。この解決に役立つのが「ロボット技術とIT」だという。
渋滞になれば、ガソリン車は燃料を浪費するし、電気自動車であっても電力が余分に必要となる。電気も結局のところは石油を燃やしたりして発電しているわけで、無駄の削減が重要な点では同じ。ガソリン車の場合、同じ自動車を使っても運転操作次第で燃費は20%以上も変わるといわれており、最もエコな運転を心掛ければ、それだけCO2排出量の低減につながる。
「渋滞学」で有名な東京大学の西成活裕教授は、高速道路では「40m以上の車間距離を空けて時速70km程度で走行する」のが渋滞を解消するのに有効とし、無駄なブレーキ操作を避けることが重要と指摘する。渋滞はトンネルの入り口や坂道などで発生しやすいが、ロボット化すれば無意識のうちに落とした速度を検出して、適切な速度に戻すようなアシストが可能となる。
さらにITを組み合わせれば、もっと高度な対策も可能になる。「これはGoogleも狙っているところですが、クラウド化して、自動車の現在位置や目的地への到着予想時間などを共有、整理できるようになれば、渋滞はかなり減らすことができます。新しく道路を造るよりも、こっちの方が簡単な対策ですね。高速道路の合流で起きる渋滞なんかも、コンピュータの情報処理みたいにきれいに割り込み処理ができるようになれば、もっと改善されるのではないでしょうか」と谷口社長は語る。
これにはインフラの整備も必要となってくるため、実現には時間がかかりそうだが、日本では1990年代後半から「ITS(高度道路交通システム)」構想が本格化しており、今年からは高速道路で「ITSスポット」を全国展開。広域の渋滞情報を利用したルート検索なども新たに可能になっている。
省エネに活用する「エネルギーITS」というプロジェクトもあり、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は既に、大型トラック3台による隊列走行実験を成功させた。これは、自動運転によって車間距離を詰めて走行することで、空気抵抗を低減、燃費を向上させることを狙ったもの。道路はそのままで交通量を増やすことができるというメリットもあり、近い将来に実用化が可能な現実的なアプローチとして期待されている。
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