「自動車メーカーにケンカを売るつもりはない」〜ロボットカーに挑戦するZMPの狙い(前編)再検証「ロボット大国・日本」(2)(1/2 ページ)

日本発ロボットベンチャー「ZMP」が自動車分野へ参入した狙いとは? 前編では「なぜロボットカーなのか」を探る。

» 2011年05月25日 10時40分 公開
[大塚実,@IT MONOist]

 ゼットエムピー(以下、ZMP)は2001年創業の若いロボットベンチャー。教育用の2足歩行ロボットや家庭用の音楽ロボットなどを開発していた同社が、自動車分野への参入を明らかにしたのは2008年末のこと。その狙いはどこにあるのか。同社の谷口恒社長に話を聞いた。

ロボット化する自動車

 「ロボットカー」と聞くと、完全自律で目的地まで運転してくれるような未来的な乗り物を想像するかもしれないが、そうでなくとも、既に多かれ少なかれ、現在の自動車は「ロボット化」している。

 1970年代から、自動車にはマイコンが使われだした。当初はエンジンの電子制御が主な目的であったが、用途が徐々に拡大し、今では「走る」「曲がる」「止まる」といった基本機能以外にも、エアバック、パワーウィンドウ、カーナビなど、多くの場所で使用。マイコンは現代の自動車には欠かせないものになっている。車種によっては、1台で100個以上マイコンを搭載する場合もあり、プログラムも年々複雑になっているという。

 最近注目されているのは、センサーやカメラを搭載することで、事故を未然に防いだり、事故のダメージを低減させるような、高度化された安全技術だ。例えば「レーダーを搭載して衝突しそうなときに警告を出したり、自動的にブレーキを作動させる機能」「道路の白線をカメラでモニターしていて、逸脱しそうなときは警告を出したり、車線内に戻すようにブレーキを制御する機能」「赤外線を車両前方に照射して、夜間でも歩行者や障害物を識別しやすくする機能」など、既に多くの機能が実用化されており、高級車を中心に搭載されている。これらは十分「ロボット的」と言えるのではないだろうか。

ZMPのロボットカー

 ZMPはまず、ロボットカーの研究・教育用プラットフォームとして、10分の1スケールの「RoboCar® 1/10」を2009年6月に発売。そして今年(2011年)1月には開発用プラットフォームとして、実車サイズの「RoboCar® MEV」を投入した。RoboCar MEVは電気自動車として公道走行も可能な本格的なものになる。

「RoboCar MEV」デモ動画

 ロボットカーの研究をやりたいと思っても、自動車は大きくて高価なため、広いスペースや高いコストが必要となってしまう。しかし、そういった実験環境を準備できる大学や研究機関は限られるだろうし、そもそも興味があるのが制御アルゴリズムなどソフトウェア分野であれば、本筋でないハードウェアへの金銭的・時間的投資はなるべく抑えたいところ。こういった参入へのハードルを下げ、もっと多くのプレーヤーが研究を始められるよう開発されたのが同社のRoboCar 1/10である。

photo RoboCar 1/10
©2011 ZMP INC.

 サイズは実車の10分の1スケールだが、ステレオカメラ、画像認識モジュール、赤外線距離センサー、小型レーザーレンジファインダなど、環境認識に必要な各種センサーは一式用意。MATLAB/Simulinkなどを使って、前述のような衝突回避アルゴリズムなどを検証することができる。本体上ではOSとしてLinuxが動作しており、ユーザーはアプリケーションを開発することで動きを制御。通信モジュールも搭載しているので、群制御の研究などにも応用が可能だ。

photo レーザーレンジファインダを搭載したRoboCar 1/10
©2011 ZMP INC.

 一方RoboCar MEVは、人間が乗ることもできる超小型電気自動車(マイクロEV)である。ミニカー(道路運送車両法)に区分される1人乗りの四輪原動機付自転車であり、運転には普通自動車免許が必要となる。なお法定の最高速度は時速60km。原付扱いのため、車検や車庫証明などは不要だ。搭載したコントロールPCから車両を制御することが可能で、ドライブバイワイヤを搭載して速度制御が可能な「タイプA」、ステアバイワイヤも搭載して操舵制御も可能な「タイプB」、さらにブレーキバイワイヤも搭載した「タイプC」の3モデルを用意した。

photo RoboCar MEV
©2011 ZMP INC.

 ポイントは、オープンなプラットフォームであること。もし研究のために市販の電気自動車を買ってきて、ステレオカメラを付けて制御しようとしても、通常は内部はブラックボックスとなっているので、そのままでは接続することはできない。同社のロボットカーの場合、もともとRoboCar MEV用に販売するステレオカメラはあるが、インタフェースは公開されているので、ユーザーが使いたいカメラやセンサーを自由に取り付けて利用することができる。

 RoboCar 1/10とRoboCar MEVは、もちろんそれぞれ単独で導入してもよいが、例えば最初にスケールモデルで検証してから、実車サイズで実験するように組み合わせて利用すれば、より効率的な研究開発も可能になるだろう。

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