産業用ロボットの雄、安川電機は産業用ロボットを中核としつつ、単能工型から多能工型への転換を図り、サービス業にまでロボットを普及させる。
前回は、産業用ロボットのこれまでと現状について、安川電機 東京管理部 広報・IRグループ長の林田歩氏に話を聞いた。
今回も引き続き林田氏から伺った話を基に、安川電機が見据える“これからの展望”について紹介する。
従来の産業用ロボットというと、大きくていかにもメカメカしい印象があったが、安川電機が2007年に開発した「MOTOMAN-SDA」シリーズは、ちょっと雰囲気が違う。――双腕を備えており、何だか少し、人間らしくないだろうか。
人間っぽいのは外観だけではない。SDAシリーズのラインアップは、可搬重量5kg/腕のSDA5Dから同20kg/腕のSDA20Dまでと、産業用ロボットとしては比較的ローパワー。SDA10Dの大きさは、肩幅(両腕の軸間距離)が53cm、全高(頭部は不要なので搭載していない)が135cmと、ほぼ大人サイズだ。また自由度は片腕7軸と、一般的な産業用ロボットからは1軸増えており、より人間に近い動作が可能となっている。
人間に近い姿をしているのは、このロボットが“作業者の置き換え”を狙った製品だからである。人間と同じサイズであれば、人間が作業していたスペースにそのまま入って仕事ができる。設備の改修が最低限で済むのは、コスト的にも時間的にも大きなメリットだ。また腕が2本あるため、人間と同じように、両腕を使ってモノを持ったり、持ち替えたりすることも可能だ。まだ100%ではないものの、ドライバーなど、人間用の道具を使うこともできるという。
人間と同じような作業ができる“高い汎用性”が双腕ロボットの特徴だ。用途としては、家電などの組み立て作業や、物流プロセスにおける搬送作業などが想定されている。
この1つの成果としては、2011年5月に発表された「自動開梱システム」がある。このロボットシステムは、医薬品工場や食品工場において、双腕ロボットがカッターを使って段ボール箱を開梱し、中身の袋(原料)を取り出して、さらに箱を畳んで置くところまで行えるというものだ。鹿島建設との共同開発により実用化しており、現在施工中の医薬品工場への導入も既に決まっているそうだ。
こういった開封作業は単調で重労働であるため、自動化が望まれていたが、箱の種類が多かったり、動作が複雑だったりする問題があって、これまで自動化が難しかった。このシステムの場合、開梱作業に要する時間は人間と同等だが、ロボットは24時間稼働が可能であるため、人件費の削減が期待できる。今後、さまざまな工程でこうした適用例は増えていきそうだ。
同社は双腕ロボットのMOTOMAN-SDAシリーズと、その単腕バージョンといえるMOTOMAN-SIAシリーズを“新世代ロボット”と位置付け、従来、あまり自動化が進んでいなかった産業分野への展開を進める構えだ。
SIAシリーズは、従来と同じ垂直多関節ロボットであるが、違うのは、このロボットも“7軸”であるということ。一般的な6軸ロボットに比べ、増えたのは1軸だけだが、追加された7軸目(E軸)は人間の腕でいうと“肘”に相当し、腕をねじらせることが可能だ。7軸になると、作業エリアがロボットアームの手前側に拡大するため、設備全体をコンパクトにできるメリットがある。
従来型の産業用ロボットとのポジショニングの違いについては、同社が創立100周年に向けて策定した「2015年ビジョン」のWebサイトを参照してほしい。少子高齢化社会の到来、そして労働力不足が懸念される中、ロボットへの期待は高まっている。産業用ロボットを中核としつつ、単能工型から多能工型への転換を図り、サービス業にまでロボットを普及させるのが狙いだ。
MOTOMAN-SDA/SIAシリーズは、そのための第一歩である。将来的にはさらに多機能化を進め、もっと人間の身近なところで活動できるようなロボットを開発していく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.