心技隊のブースがひときわにぎわったのが、2日。ブースの目玉イベント 全日本製造業コマ大戦を目当てに大勢の人が集まっていた。
この大戦は、ミナロ 緑川氏が“言いだしっぺ”。
「小さなコマなら、旋盤を持っていれば1個5分ぐらいでできて、それほど手間が掛からないでしょ。それなら、全国の町工場の人たちに、ちょっと時間のあいたときにコマを作ってもらって、集結してもらおう!――と。そういうことを思い付いて、あちこちで言ってみたり、Facebookで投稿してみたりしたら、『それ面白いね』と反応してくれる人たちがいたので、『それじゃあ、やってみるか』と。今回のテクニカルショウに出ることはそのとき(2011年11月ごろ)既に決まっていたので、ブースの中に大会のコーナーを設置しようということで始まりました」(緑川氏)。
大戦事前から、参加チームは大会のFacebookページに製作過程を投稿し、その意気込みをアピールしてきた。このように、Facebookを中心にして盛り上がったことも、興味深い。
以下が、参加企業・団体。業務都合で参加ができず、ピンチヒッターに出場させる企業もあった。
以下は、エントリーのみ。
神奈川県や東京都以外では、愛知県、群馬県、千葉県、茨城県、静岡県、福井県、新潟県、長野県からのエントリーがあった。
「学校からの参加はうれしいですね」(緑川氏)。
ブースの一部に、実況席と、協力企業のロゴが描かれた小さい土俵が設けられた。司会進行はエコックス 代表取締役 椙田祐司氏、解説は由紀精密 CTO 笠原真樹氏。行司(審判)は、モールドテック 代表取締役の落合孝明氏が務めた。
狭いブース内に所狭しと人が集まり、ケミカルウッド製の小さな土俵上(φ250mm、凹R700mm)の小さな戦士の勝負に注目した。この様子は、enmonoの宇都宮茂氏と三木康司氏によってUStreamでリアルタイムに中継。
この大戦で使われたのは、指回し式の喧嘩(けんか)ゴマ。外形寸法がφ20mm以下なら、高さや重量、材質、仕掛けなどは一切自由だ。安定して回り続けることに注力させる、パワー重視でケンカをさせる、あるいはどちらも……という具合に設計思想もさまざまだった。得意とする加工法を生かす、あるいは廃材を利用するなど、製作方法にも企業の個性が表れていた。
「外周のサイズが決められているのがポイントです。ぶつかりに強いのは、重いコマ。回りやすいのは低重心のコマ。その両方を満たすのはなかなか難しいのです」(笠原氏)。
中には、TRIZを使って問題解決をしてコマ設計をしたチームまで。“遊び”とはいえ、各チームの本気度は非常に高かった。
土俵の外にコマが出るか、先に止まってしまった方が負けと、ルールはシンプル。勝ち上がっていくたびに相手のコマを奪っていき、優勝することで総取りできる。
結局、上位に残ったのは、オーソドックスな“コマらしい”形状をしたコマだった。決勝戦は、シンコウギヤー・カキタ製作所連合VS由紀精密となり、精密切削加工同士の“静かな”戦いとなった。
「昔ながらの形は、やはり理にかなっているものだなと思いました。Facebookで出場者の皆さんの製作過程を見ましたが、初期の設計では結構、変わった形をした物が多かったのですが、いざ出そろってみると、大体が普通の形になっていました」(笠原氏)。
優勝したのは、由紀精密。同社には参加者のコマ全てとトロフィー、賞状が送られた。
由紀精密は、もともとミニチュア精密ゴマ「SEIMITSU COMA」(ステンレス製、φ10mm)を製作・販売していて、大会事前より“優勝の本命”とささやかれていたようだ。ちなみに、緑川氏がコマの大会を思い付いたのも、SEIMITSU COMAを見たのがきっかけだったという。
同社はミニチュアゴマのほかにも自社製品開発に積極的で、プロダクトデザイナー 前川曜氏の立ち上げたブランド「BRANCH」にも参画する。
「今回は、Facebookの事前の投稿通りの(高そうな)実力で行けば勝てそうだと思っていたチームが、うまく勝ち残れないということもありました。技術力や精度だけではなく、そこに込める思いや、回し手に掛かるプレッシャーに打ち勝つ力も大事。そこに、このコマ大戦の一番の面白さを見たように思います。そして、それがモノづくりに通じている部分もあるのかな、と」(椙田氏)。
「こういう催しをやることで、中小企業、町工場の現場を盛り上げたいですね。『面白いね』『何かやってるなぁ』と思ってもらえるような、“ワクワク感”を作っていければ。製造業も、暗いニュースばかり続くので、『ちょっとでも明るい』『夢が持てる』ようにするために、われわれのレベルで、手っ取り早くできることは何かな、と考えたときに、こういうこと(コマ大戦)だと思いました。今回のコマ大戦は、“作る”ことにもドラマがあったし、対戦にもドラマがありました。そんな、ドキュメンタリー的要素、『物語が中小企業でも作れる』と言うことをアピールしたいです」(緑川氏)。
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次回は、大いに盛り上がったコマ大戦にクローズアップした内容をお届けする。参加者が持ち込んだコマのスペックや、そこに秘められた思いについても紹介していく。
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