中小製造業を中心に盛り上がるイベント「全日本製造業コマ大戦」。その行司(審判)が、イベントに込められた思いや課題を語った。
「全国3000万人のコマファンの皆さま、こんにちは!」――僕は、全日本製造業コマ大戦 初代行司「落守伊之助」です。今回は「行司」(審判)の目線から、コマ大戦について語っていきます。よろしくお願いします。
「コマ? 何それ」という方は、本題に入る前にMONOistの過去記事もぜひご覧ください(以下の関連記事)。
コマ大戦とは、自分たちで製作した小さなコマ(外形φ20mm以内、材質自由)を持ち寄って、ケミカルウッド製の土俵の上で対決させ、トーナメント式で勝敗を決める大会です。ただ、それだけのイベントです。しかしこのコマ大戦、ありがたいことに、開催するたびに非常に多くの参加者や観戦者が集まり、これまでもいろいろなメディアに取り上げていただきました。先日もNHKの番組でコマ大戦のことが大きく取り上げられましたが、なんと「番組史上最高の視聴率」だったと聞いています。
「どんなに盛り上がったって、まあ、“内輪ネタ程度”で終わるんだろうなぁ……」――初のコマ大戦が開催される前まで、僕はそう思っていました。まさか、ここまで規模が大きく、そして世の中で話題になるとは、夢にも思っていなかったのです。そして、行司として取り組みの判定をすることがここまで重い仕事になるとは、思いもしませんでした。
まだまだ寒い2012年2月、パシフィコ横浜(横浜市西区)で開催された展示会「テクニカルショウヨコハマ 2012」(公益財団法人神奈川産業振興センターらが主催)の「心技隊」ブースの一角。そこで初めて、「全日本製造業コマ大戦」が開催されました。「大のオトナたちによる、熱く本気な戦い」の幕開けです。
心技隊は、主に神奈川県で活動する異業種グループです。その隊長が、木型メーカー ミナロの緑川賢司さんです。昨年(2011年)の秋ごろ、緑川さんが、由紀精密で販売していたミニチュア精密コマ「SEIMITSU COMA」を見たことから、ふと、「そうだ、『全日本製造業コマ大戦』っていうのをやってみたら、どうかなぁ?」とひらめいたそうです。そんな何気ない思い付きに、その場にいた製造業数名が賛同したことから、全てが動き出したのです。
僕が行司を引き受けたきっかけも、緑川さんとお酒を飲んでいる最中に、「行司やらない?」と軽く声を掛けられたことから。つい、「いいっすよ」なんて、僕もその場のノリで軽くOKしてしまったのです。
コマ大戦が始まる前夜まで、いろいろと心配でした。
「果たして、本当に人は集まるのか? 盛り上がるのか?」
「そもそも、コマなんか回して面白いのか?」
「こんな衣装まで用意してもらって、誰もいなかったら……ちょっとねぇ……」
ところが、フタを開けてみたら、ビックリです! 会場に集まった人の数、そこからかもし出される熱気、そしてコマ製作者たちの本気の目! 取材は、新聞雑誌だけではなく、テレビ局まで! NHKでは、当日の夜にコマ大戦について報じるニュースまで流れました。
当初、緑川さんは「10チームも集まれば、上出来だろうな」と思っていたそうです。しかし実際集まったのは、21チームでした。これは誰にも予想できなかったのではないでしょうか。
各チームは、「なんとなく面白そうだから」「何か始めたかったから」と、参加の理由はさまざまみたいです。また、実際に大会に参加し、会場の熱気に触れて、それが結構な刺激になるようなのです。その証拠に、一度参加したチームの大半はリベンジに燃えます。
僕自身も行司だけではなく、第1回大会に参戦したチタン加工メーカーの西村金属の「チタン製 逆さコマ」の設計に協力しました(そのてん末は、MONOistの記事の通り……)。今思えば、この件も西村金属の常務 西村昭宏さんの「おちさん、コマ設計してよ〜」の軽い一言に、僕も軽く「いいよ」と答えたことが始まりでしたね。
コマは本業で作っている部品や製品と比べれば、結構気軽ですし、分かりやすい存在だと思います。そういうことからも、コマ大戦は、比較的誰もが気軽に参加しやすいイベントなのかもしれません。
今だから言ってしまいますが、初めての行司は、もう、「恥ずかしい」やら、「プレッシャー」やら、「衣装でかい」(ぶかぶかでした)やらで、何度「逃げて出してしまおう」と思ったことか。特に決勝での判定の難しさ、緊張感といったら、もうたまりませんでした……。しかし、そんな行司のプレッシャーも大会を2回、3回と重ねるごとで徐々に開放され、今では周りを見渡す余裕も多少出てきました。
冷静に考えてみると、行司は、間違いなく「一番の特等席」なのです。臨場感を味わうなら、この場所以上の席はありません。微妙な判定には、今だって、かなり“嫌〜な”汗が出ますが、熱い取り組みをカブリツキで見られるのは、かなりオイシイ。これは“役得”といえましょう。
大勢の観客の「期待感あふれる視線」が、一気に1つの小さな土俵に注がれます。そこには、「投げ手の緊張感」「コマにかけた思い」「負けた悔しさ」「勝ったときの喜び」など、さまざまな感情が渦巻きます。土俵の周辺だけ、間違いなく、気温が異様に高かったと思います。これは土俵際に立ってみないと、分からないことかもしれませんね。
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