彼らがいれば、日本のモノづくりは大丈夫だね!車を愛すモノづくりコンサルタントの学生フォーミュラレポ(後編)(3/3 ページ)

» 2011年11月11日 12時50分 公開
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今年のデザインファイナル、どうだった?

 大会最後のイベントは選抜されたチームによるデザインファイナルです。選抜基準は「優秀で特徴的な設計をしたチーム」で、今年選抜されたのは、以下の4校。

  • 大阪大学(No.1)
  • 上智大学(No.2)
  • 京都大学(No.9)
  • Swinburne University of Technology(オーストラリアから参戦)(No.84)

 審査委員長の小野昌朗氏(東京アールアンドデー 代表取締役社長)のインタビューに対し、開発コンセプト、技術的特徴、今後の方向性などをチームメンバーが答えます。大勢の人々が見守る中での受け答えなので、かなり緊張しているのが伝わってきて、かわいいですねぇ。

 このデザインファイナル時にも使われるプレゼンテーションパネルは非常に見応えがあります。3次元CADでのシャシーレイアウトや、CAEでの強度解析や、空力シミュレーション結果など、さまざまな情報がセンス良く記されていて、各チームのパネルを見るだけでも丸1日かかりそうです。

編集担当小林:2011年のデザインファイナルは、スケジュール進行の都合で時間がなかったことから、4校になりました。1校に配分された時間も、短かく感じられました。


デザインファイナル中 デザインファイナル中の上智大学チーム:高さのあるフロントカウル、空気の流れが目に見えるようなサイドポンツーン~ディフューザーの形状など、外観からパフォーマンスの高さが感じ取れる好例。
デザインファイナル中 審査委員長の質問に一生懸命答える大阪大学チームメンバー:このマシンのカウル形状もパフォーマンスの高さがすぐ分かりますね。速いマシンは美しい!

第9回大会 結果発表!

 2011年9月9日、5日間に渡る全ての審査が無事終了し、18時半から表彰式が行われました。総合順位は、以下でした。

  • 総合優勝:上智大学(No.2)
  • 総合2位:横浜国立大学(No.3)
  • 総合3位:大阪大学(No.1)
  • 総合4位:Swinburne University of Technology(オーストラリア)(No.84)
  • 総合5位:宇都宮大学(No.12)
  • 総合6位:名古屋大学(No.28)

 今年の第9回大会の上位3校は、昨年の第8回大会の上位3校のまま、まさに高レベルのデッドヒートです! 4位のオーストラリアチームは初出場での快挙、5位の宇都宮大学、6位の名古屋大学は2桁ゼッケンからのジャンプアップでした。その他各賞の結果など、詳細については大会公式サイトをご覧ください。


編集担当小林:この大会後、総合優勝校 上智大学チームを取材しました。後日、その記事を公開予定ですのでお楽しみに!


大震災と学生フォーミュラ大会

 ここからは今回学生フォーミュラ大会を取材して感じたことを述べていきます。まず1つ目は3.11の東日本大震災がこの大会にも大きく影響したことです。過去8回開催した大会は日曜日が最終日に設定されていましたが、今回は月曜日から金曜日の平日5日間の開催になりました。これは自動車業界の稼働日シフト(木曜、金曜休み)に合わせたものと思われます。もっとも大きな影響は、震源地に近い大学の活動そのものでした。

 以下は震災の影響について、学生たちのコメントです。

 「8割方フレームが完成した時期に震災が起き、丸々1カ月学校に入れず、マシンの完成も一カ月遅れてしまいました。多大な協力をいただいたスポンサー企業さんも大きなダメージを受けた所が少なくなく、良い結果出してお返しがしたいと思っています」(茨城大学)。

 「シェイクダウンが早く終わり、ほっとしていたら大震災。学校に入れず工作機械も使えなくなりました。パーツ類も早めに作っておいたので何とかなりましたが、厳しかった……」(日本工業大学)。

 「震災後2週間学校に入れませんでした。例年は学校に泊りこんで活動をしていたのですがそれもできず……。でも、ほかの大学も同様か、それ以上に厳しかったはずです」(東京都市大学)。

 大会運営本部によると、エントリー数などには直接影響はなかったようですが、甚大な被害を受けた東北地方が一刻も早く復興し、東北の大学からのエントリーが増加することを祈らずにはいられません。

否定できない「若者の車離れ」

 もう1つは「若者の車離れ」がやはり進んでいるということです。大会会場の熱気の中にいると、「なんだぁ、日本はまだまだ車好きの学生たちでいっぱいじゃないか!」と感じてしまいますが、残念ながらそれは錯覚のようです……。今回インタビューさせていただいた全てのチームから「部員集めが非常に厳しい」というコメントがありました。中には「今年は1人も入部してくれなかった」というチームも。私は幾つかの大学で「モノづくり講義」を担当していますが、初回の講義で自己紹介をした後に、「この中でモーターサイクルか自動車が趣味だという人、手を挙げて!」と必ず尋ねることにしているのですが、手を挙げるのは20人に1人程度、つまり5%しかいません。しかもそれは理科系単科大学や、工学部での話なのですから。

 「学生に自動車好きが少ない」→「自動車メーカーに自動車好きが少ない」→「面白い国産車が出てこない」→「若者がさらに車に興味を示さなくなる」という負のスパイラル……。これは“どげんかせんといかん”問題ですねぇ……。

だけど、日本のモノづくりは大丈夫だ!

 暗い話題が続きましたが、まとめは明るく行きましょうか。インタビューさせていただいた各チームのリーダーに投げ掛けた質問がこれです。

 「まずはスポンサー集めをし、マシンを設計し、製作し、遠征する。とてつもない労力だよね? しかも学業と両立させなきゃいけない。やっていて辛くない? なぜ学生フォーミュラをやってるの?」

 そして、全てのチームリーダーがほぼ同様の答えを返してくれました。

 「そりゃぁつらいですよ。徹夜続きになったり、仲間と言い合いになったり、もうやめようかなと思ったことも1度や2度ではありません。でも、自分たちが精魂込めて作り上げたマシンが目の前を素晴らしいエキゾーストノートを響かせながら駆け抜けていく。その姿を見たら、いままでの苦労なんて全て忘れちゃいますよ!」

 そう答える彼らの目はきらきらと輝いています。その答えを聞くたび、そしてその清らかな目を見るたび、“車大好き中年オヤジ”の目はうるうるしてしまうのです………。そして、この文章を書いている時点で、またうるうるしています。年を取ると涙もろくなるというのは本当なんですね(笑)。

 彼らのような若者が日本にいる限り、日本のモノづくりは大丈夫だ!

「車をこよなく愛する」中年オヤジ語りはいかがでしたか?

 さて前後編でお届けした「全日本学生フォーミュラ大会」のレポート、楽しんでいただけましたでしょうか? 「技術的な解説をもっとしてほしい」とか「筆者の好みや思い込みが強くない!?」とか、声が聞こえてきそうですが……、「車をこよなく愛する」中年オヤジの素直な思いですので、どうかご容赦くだされば幸いです。そしてブログやTwitterで感想を伝えてくださったエントラントの皆さま、ありがとうございました。引き続き異論・反論を含め、感想を「関ものづくり研究所」までお寄せくださいね。

 各チームでは既に2012年大会に向けての活動に入っているのでしょうが、できるだけ日程に余裕を持って、体調とケガに留意して頑張ってほしいと思います。まぁ、お若いですから多少の徹夜作業などはなんてことないのでしょうが(笑)。

 私も2012年の大会はもっと長い時間をかけて、1つでも多くのチームピットにお邪魔しようと思っています。日本のモノづくりの基幹を担う自動車産業が正しい発展を続けるためには、“モノづくり大好き人材”の育成しか方法はありません。この全日本学生フォーミュラ大会はその人材養成の場として大きな役割を果たしていることは間違いないのです。そして静岡県袋井市のエコパが学生フォーミュラの聖地となるように、静岡県民である私も微力ながら応援し続けることをここに約束します。

もっともっと書きたい! ……というわけで

 「大好きな車が題材だと筆が進む」ので、もっともっと書きたいっ! ……というわけで、実は、「EV(電気自動車編)」も、少しですが書いちゃいました。第9回大会中に開催した「EV模擬審査」に参加した静岡大学チーム(SUM-EV)の登場です。“中年オヤジ語り”のスピンオフ記事をお楽しみに!


筆者紹介

関伸一(せき・しんいち) 関ものづくり研究所 代表

 専門である機械工学および統計学を基盤として、品質向上を切り口に現場の改善を中心とした業務に携わる。ローランド ディー. ジー. では、改善業務の集大成として考案した「デジタル屋台生産システム」で、大型インクジェットプリンタなどの大規模アセンブリを完全一人完結組み立てを行い、品質/生産性/作業者のモチベーション向上を実現した。ISO9001/14001マネジメントシステムにも精通し、実務改善に寄与するマネジメントシステムの構築に精力的に取り組み、その延長線上として労働安全衛生を含むリスクマネジメントシステムの構築も成し遂げている。

 現在、関ものづくり研究所 代表として現場改善のコンサルティングに従事する傍ら、各地の中小企業向けセミナー講師としても活躍。静岡大学、静岡理工科大学、早稲田大学大学院、豊橋技術科学大学で講師として教鞭をにぎる。



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