震災を機にグローバル化への対応を急ぐ日本の製造業各社。次世代に向けて各社はどのような構想を持っているのだろうか。その中でIT技術はどう活用されるだろうか。「IBM インダストリアル・フォーラム京都2011」で聴講した内容からそのヒントを探る。
2011年10月27〜28日の2日間、IBM インダストリアル・フォーラム京都2011が開催された。会期中はエレクトロニクス、建機、自動車、化学、重工業などの業種ごとに、事例を中心とした15セッションの講演が行われた。本稿では筆者が注目した講演内容をダイジェストでお届けする。
基調講演に立ったトヨタ自動車 代表取締役会長 張富士夫氏は、トヨタ生産方式(TPS)を体系化した大野耐一氏の“一番弟子”であった鈴村喜久雄氏の部下として、改善活動について直接指導を受けた技術者。米国ケンタッキー州の工場立ち上げを指揮し、米国に「kaizen」を知らしめた人物としても知られる。
張氏は東日本大震災で被災した車載半導体メーカーに対して、官民を挙げて「かつてない規模の支援体制」で生産再開支援を行ったことを振り返った*。
張氏は「個人的な意見」と前置きをした上で「従来、半導体メーカーは、自動車の部品メーカーや鋼材メーカーとは別に考えてきたところがある。業界との関係性も(他のサプライヤと比較すると)緊密でなかった。しかし、現在の自動車において半導体は必要不可欠な部品。震災後の支援体制構築の成功を機に、半導体業界とも、他のサプライヤらと同様の関係性を構築できたら、と考えている」と語り、今後も重要性を増す車載半導体のメーカー各社との連携強化を図る意思を示した。
この他、トヨタが提案するスマートグリッドの構想も披露された*。
*トヨタが考えるスマートグリッドのうち、次世代自動車を中心とした部分については@IT MONOist「環境技術」フォーラム連載「トヨタが考える次世代環境車」で詳細を示している。
自動車関連では、この他にも、ホンダが展開する「スマートハウス」を軸としたコンパクトシティ*における次世代四輪車/二輪車の位置付け、街づくり構想に関するセッションがあった。
ホンダが提案しているのはスマートグリッドの大規模な仕組みではなく、一般家庭それぞれで次世代エネルギーを活用する「スマートホーム」を起点とした街づくりだ。中規模都市における世界中の取り組みを研究し、人間が中心となる都市中心部での公共交通向けから、周辺部、郊外での移動手段のあるべき姿を追求し、同社の次世代四輪車/二輪車開発構想を組み立てているという。
*コンパクトシティ ORの専門家であるダンツィグとサアティが1973年に示した概念(Dantzig,George B.; Saaty, Thomas L., Compact City : A Plan for a Livable Urban Environment, W. H. Freeman & Co., San Francisco, Cal,.(1973))。翻訳は、G.B.ダンツィク/T.L.サアティ、『コンパクト・シティ』日科技連出版社(1974)。
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会期中は事例セッションの他にも、日本アイ・ビー・エムの製造業界向けソリューションが多数展示されていた。ここからはその中でも@IT MONOist読者に近しい内容のものを紹介する。
スマートグリッドが実現する世界では、個々の自動車が端末として情報を発信することが想定されている。詳細な情報をリアルタイムに収集できれば、道路交通インフラのマネジメントやナビゲーションは大きく変わることになる。展示されていたのはそうした世界を想定した、走行中の自動車から発進された情報を瞬時に解析し、道路交通情報を詳細かつリアルタイムで提供するサービスのデモだ。このシステムの最大の課題は、都市を走行する全ての車両から随時データが送られてくること、それらを一度に大量に処理し、分析して正しく結果を返すことにある。同社ではストリームデータ分析向けに「InfoSphere Streams」を開発、同デモシステムに採用している。
リアルタイムで自動車から送られてくるプローブ情報を地図上にマッピングし、混雑状況を解析し、「その時点での」最短経路を計算してナビゲートする仕組みだ。
同デモはIntel Xeon 3GHz(4コア)マシンを使い、OSはRed Hat Enterprise Linux 5.3という環境で実行している。オープン系の比較的低コストな構成で、25万件/秒のプローブデータを処理できるのがInfoSphere Streamsの特徴だという(最大で100万件/秒程度のパフォーマンスまで増強可能)。
将来的にはストリームデータ処理を行う一方で、蓄積データも解析し、さまざまなサービスへの展開を考えているという。
「CAD on Desktop Cloud」は、一般的な「パソコン」レベルの環境でどこからでもCATIA V5が動作するというもの。Intel Xeon 5600番台のCPUとNVIDIA QuadroシリーズまたはTeslaシリーズのGPUを搭載したSystem X iDataPlexを使い、Citrixが提供するサーバ仮想化ソフトウェア「XenServer」と組み合わせている。
最新版のXenServerでは、仮想マシンから物理メモリをハイバーバイザ(仮想マシン管理機構)を経由せずに利用できるため、GPUの演算能力をフルに利用できる点が特徴(GPUバススルー機能)。
「現在は1つの仮想マシンに対して1つのGPUを対で利用するが、将来的にはGPUのリソースも安全に共有できるようになる」(ブース説明員)という。
仮想デスクトップを使った設計環境は幾つか存在するが、同デモで示した環境は「端末を選ばず、オープンなアーキテクチャで提供できるのが強み」(同)だという。
開会のあいさつに立った日本アイ・ビー・エム 取締役専務執行役員 ポール与那嶺氏によるオープニングセッションでは、「日本のモノづくりプロセスはTPSに代表されるように世界一、課題は間接業務の効率化にある」と指摘、同社が推進する間接部門のグローバル化・標準化のための「7つのプラットフォーム」の重要性を示唆した。事例セッションでは上記自動車メーカーのセッション以外にも、製造業各社のグローバル人材育成や、業務システムプラットフォームのグローバル統合などの先進事例が続いた。
世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。
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