改善、定着フェイズの障害への対処法と現在注目を集める「リーンシグマ」の手法を紹介。事例を参考に継続的改善を成功させるコツを知る。
シックスシグマには多くの企業が取り組んでいるが、適用の仕方次第では望む結果が得られない場合もある。どう導入すればいいのか、どう考えると間違いなのかを身近な例題を基に解き明かしていく(編集部)
皆さまこんにちは! 五葉コンサルティングの楊です。前回はプロジェクトを実行する際に起こりがちな障害を、D(定義)、M(測定)、A(分析)のフェイズごとに見ながら、シックスシグマプロジェクトのチームがどのようにそれらの障害に対処し、乗り越えているのかを紹介しました。
最終回となる今回は、I(改善)、C(定着)のフェイズで起こる障害に対処する方法と、シックスシグマの進化版といわれている、「リーンシックスシグマ(リーンシグマ)」を紹介します。
Iフェイズは、いよいよチームのアイデア改善に向けて絞り出し、具現化していくフェイズになります。これまではデータ中心の事実収集や分析が主な作業でしたが、ここでは自由で柔軟な発想、奇抜なアイデアが求められますので、メンバーのモチベーションが一気に上昇するタイミングでもあります。
数多く出し合ったメンバーのアイデアから、実際に導入を進める解決策を決定していくわけですが、最終的にそのアイデアが採用されるかは、チャンピオンや経営層の判断となります。チームで多くの情報を基に「これが最善だ」と決め、気合を入れて報告したものの、経営層の反応が悪く方針を変えざるを得なかったという話は、皆さんもよく耳にするところかと思います。このような事態を避けるための対策について、見ていきましょう。
欠品率低減プロジェクトリーダーのK課長は、Aフェイズで明らかになった根本原因
「営業から見込み情報をもらう頻度が月次である」
を中心に、ブレインストーミングなどを活用して、メンバー全員で解決策のアイデアを出し合いました。数多くのアイデアを効果やコスト、効果が出るまでの期間などの切り口を設けて点数付けを行い、チーム内で議論を深めた結果、最終的に
「営業部員に営業週報データを作成してもらい、週次で先3カ月分の売り上げ見込み情報の更新を行って、生販部門での情報を共有する」
というアイデアをチームとして採用することにしました。
K課長はメンバーと協力して、これまでの経緯やこの案を採用するに至った理由など20枚を超えるプレゼンテーション資料を作成し、役員会でこのアイデアを発表しました。しかし、発表の途中で、ある役員からの質問に答えているうちに時間切れとなり、
「結局ここで何を決めてほしいのかが分からない」
という社長の一言で、プレゼンは打ち切りとなってしまいました。K課長も目の前が真っ暗になる思いでしたが、共に出席していたチャンピオンのフォローのおかげで、次回の役員会で15分だけ時間をもらい、もう一度プレゼンをやり直すチャンスをもらうことができました。
K課長はあらためて、どうしたら短い時間で経営層に、
「その解決策について、効果もリスクも、経営層が果たすべき役割も理解した。よし、それでいこう!」
といってもらえるような説明ができるかを考え、シックスシグマのトレーニングで学んだ「フォース・フィールド分析」を利用してプレゼンを行うことにしました。
この手法は社会心理学者のレヴィン博士によって最初に考え出されたもので、経営層への提案の前にアイデアを精査し、より分かりやすく、強固なものにするために活用されているものです。
フォース・フィールド分析の作業は、具体的には以下の手順で行います。
フォース・フィールド分析を行うことで、見落としていた抑制力の項目に対し、どのような手を打つことができるかも、チームで検討することができました。
K課長は検討の結果をこの1枚にまとめ、2度目の役員会に臨みました。検討事項をたくさん抱え、時間のない役員たちにとって、シンプルで要点を突いたこのプレゼンはとても好意的に受け止められました。この結果、ようやく経営層の承認をもらい、営業週報ツールに対する抵抗を軽減するため、社長から直接、営業部員に対してメッセージを送るということが決まりました。
経営層などの意思決定者にとって、解決策を進めるかどうかの判断の役に立つ情報は、大きく「効果」「コスト・リスク」「コスト・リスクを抑えるために打てる手はあるのか?」の3つが主で、それぞれに対する根拠がそれに続きます。今回ご紹介した「フォース・フィールド分析」は1枚の資料で3つの情報を網羅できるため、分かりやすく、非常に使いやすい分析方法です。効果も実感しやすいものですので、ぜひご活用ください。
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