富士ソフトが、同社の知能化技術を統合させたヒューマノイドロボット「PALRO」を開発。教育機関向けモデルを先行販売する。
富士ソフトは2010年2月1日、同社の知能化技術を統合させたヒューマノイドロボット「PALRO」を開発したと発表した。教育機関向けモデルの販売を2010年3月15日から開始する予定。価格は29万8000円。初年度は1000体の出荷を予定している。
また、2010年度中(2010年3月末)にはコンシューマ向けモデルの販売も計画されている(価格は未定)。
PALROの主な仕様は以下のとおり。
PALROの身長は39.8cmで体重は1.6kg。ソニーが1999〜2006年まで展開していたコミュニケーションロボット「AIBO」が手足を伸ばして2足歩行をしたぐらいのサイズだ。PALROの名称は「pal=友達」「ro=ロボット」に由来しているという。
同社の白石 晴久社長はPALROについて「視覚、聴覚、会話、そして2足歩行という機能を備えた本格的なヒューマノイドでありながら、マザーボードやアクチュエータなどハードウェアに汎用部品を全面的に採用し、ソフトウェアで機能を補完するという形で高機能・低価格を実現した」と語る。
これまでヒューマノイドロボットは、本田技研工業やソニーといったハードウェアメーカーが中心となって市場を牽引してきた。なぜ今回、富士ソフトのようなソフトウェアメーカーがロボットビジネスに乗り出すのだろうか?
白石社長はPALROによるロボット事業展開について「当社が長きに渡って培ってきた組み込み系ソフトウェア技術の存在、まずはこれが一番大きい」と、その理由を述べる。
同社は経済産業省が推進する「知能化ロボットプロジェクト」に参画し、組み込みソフトウェアで培ったノウハウを生かしてロボットの技術研究にこれまで取り組んできた。また、21年間に渡って同社が主催してきた「全日本ロボット相撲大会」を通じて、多くの研究機関・教育機関と理論レベルで協業関係にあったことも、ロボット開発に大きく貢献したと白石社長は語る。
もう1つの狙いは、ソフトウェア開発における「プロダクト化」だ。
「通常の受託だとお客様と業者という1対1の関係だが、プロダクト化では1つの共通サービスを多くのお客に提供するという“1対n”の関係を築こうというもの。当社はすでにこの1対nの製品として、FSDTV(デジタルテレビ向けプラットフォーム)やFS Mobile(モバイルソリューション)といった1対nの製品がある。これらと同様に1対nでロボットというプロダクトを作ってみようと考えた」(白石社長)。
ヒューマノイドロボットのターゲットは、ロボット好きなアーリーアダプタ層のほか、受付業務などを行うBtoB向け、コミュニケーション相手としての一般向けなどが挙げられる。同社ではPALRO開発に当たり、ターゲット市場の調査を実施。その結果から、研究機関や教育機関というアカデミックな市場が大きなターゲットになるという確信を得たという。
「特にロボット制御、社会用途の研究にいますぐほしいという強い声が寄せられていた。当社としても、研究機関と一緒に新たな社会的要素を研究していきたい、という思いもあり、3月に教育機関向けを先行販売することになった。29万8000円という価格は、アカデミック価格ということで採算は度外視している。コンシューマ向けには新たな機能を付加して別の価格で販売する。コンシューマ向けPALROの価格はまだ未定だが、教育機関向けよりは高額になる見込み」(白石社長)。
発表会では、PALROが持つさまざまな機能の紹介やデモンストレーションも行われた。同社事業開発部 ロボット事業推進室 室長の渋谷 正樹氏はPALROのコミュニケーション能力について「家庭で利用する場合は、ゆったりとソファに座ってリビングテーブルの横にいるPALROと会話を楽しんでもらえるだろう。その際にPALROが少し離れていてもまったく構わない。PALROがこちらに歩いてきてくれる。PALROの足は飾りではなく、高度な技術を結晶させ作り上げた移動手段」と語る。
そのほか移動知能として、11個のセンサ(圧力×8、ジャイロ×2、加速度×1)を駆使して動的安定歩行を実現しているほか、路面の変化を学習しながら追従する機能や、背景を覚えてそれらを組み合わせることで、空間の位置で自己位置を把握する機能も装備。経路探査機能と併用することで、目的の座標に移動できるという。
「外出先から携帯電話で『エアコンの電源を入れておいて』『お気に入りの番組を録画しておいて』といった機能が、アプリケーションを開発するだけで簡単に実現できる」(渋谷氏)。
このように、ソフトウェアによって自由に機能拡張が可能なのがPALROの強みだ。標準では4つのアプリケーション(カメラアプリ、録再アプリ、ネット活用アプリ、Skypeアプリ)がプリインストールされているほか、ユーザーが自由にアプリケーションを構築して搭載できるカスタマーエリアも用意。
アプリケーションを構築する際に、ロボットに関する特別な知識は一切必要ない。PALROが有するさまざまな知能化エンジンを駆使するようなアプリケーションも、同社が用意するライブラリを使うことで簡単に構築できるという。また、日本発のロボット向けミドルウェア「RTミドルウェア」に準拠しており、RTコンポーネントで拡張していくことも可能。インターネットを利用した開発コミュニティも展開する予定で、オープン化技術をベースにロボット開発の知識と資源が共有できるという。
「歩くことも、見ることも、聞くことも、話すことも、知ることも、すべてをシンプルに当たり前のようにまとめているが、1つ1つはとても高度な技術に支えられている。PALROの開発プロジェクトは約1年半前から始まったが、それ以前からずっと要素技術を開発してきたので、トータルの研究期間はかなり長い。ソフトウェアの中で理論的に動いても、ハードウェアでは動かないということが多く、そこが苦労した点」(渋谷氏)。
「大学も高専でも、現在ロボットは高価な教材。われわれが目指すのは1人1体。ロボットの利用シーンが大きく変わっていくのではないだろうか。PALROで開発した技術は、必ずしもロボットに組み込む必要はない。そういう意味で、今後は(ロボット事業を)経営資源の柱にしたいと考えている」(白石社長)。
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