TOCは工場の生産性を改善するだけの手法にとどまらない。相反するニーズの板挟みに悩まされる組織の「ジレンマ」を解消し問題解決を目指す体系的なアプローチ「TOC思考プロセス」を紹介しよう。
前回「『それができれば苦労しないよ』と決め付けないで」の解決策をご覧になってどう思ったでしょうか。やっぱり「それができれば苦労しないよ」という声が聞こえてきそうですね。これをTOC思考プロセスでは「空飛ぶブタ(flying pig solution)」と呼びます。現実にはブタは空を飛びませんが、ブタが空を飛んでいるくらいとっぴで実現する可能性が見えないアイデアという意味合いです。
ここでは前回のおさらいも兼ねて、素晴らしいアイデアを確実に実行に移すためにどうすればよいかを考えていきましょう。革新的なアイデアは実行した際の効果が見えなかったり、障害や副作用が大き過ぎて乗り超えるすべが見つからないと感じられるものです。まさに、ブタが空を飛んでいるような荒唐無稽(むけい)なアイデアです。ブタの羽をむしって地上に引きずり降ろすには、実感できるメリットを十分に考え、リスク、障害、副作用を明確にし、リスクはより少なく、障害・副作用に対しては明確な対策を立案しておく必要があります(図1)。
空飛ぶブタを地上に引きずり降ろす第一歩は、解決策を実行したときの利益や利便性とリスクをしっかりと把握することです。自分だけでなく、この解決策にかかわる人たちに利益や利便性がもたらされるならば実現は非常に容易です。しかし時として、その利益や利便性はこれまでの習慣やルールと衝突し、ジレンマを引き起こすのです。
そして次にアイデアを実行するうえでの障害を列挙していきます。「○○しようとすると……何が困難だろうか」と自分の心に問い掛けていきます。
最後は、変化を実現した後に何か悪いことが起きないか考えます。「○○という状態を実現したとすると……何が起きるだろうか」ともう一度自分の心に問い掛けていくのです。
これらの作業を丹念に行うことで、皆さんの多くの心配事は解消できるはずです。しかし抽出した心配事の中には既得権や組織のしきたりなどに抵触し、根深いジレンマを伴うものがあるかもしれません。そのような場合、必要があれば局所的な雲(クラウド)を書いて既得権益とどう折り合いをつけるかの「解決策」を考えておきます。
これらを並べてみると、図1のように現時点から解決策への道筋は障害があって見えない、解決策を実行すると副作用が出て解決策の効果が薄れるという図式になります。
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