TOCは工場の生産性を改善するだけの手法にとどまらない。相反するニーズの板挟みに悩まされる組織の「ジレンマ」を解消し問題解決を目指す体系的なアプローチ「TOC思考プロセス」を紹介しよう。
前回「あなたの行動を制約しているのは“ジレンマ”だ」では、皆さんの周りはジレンマだらけで、それに対処する典型的な行動パターンが「妥協」であるとお話ししました。今週からはいよいよ、ジレンマをどのようにウィン・ウィンで解けばよいかについて、現実的に考えていきましょう。もしも皆さんがジレンマを根本的に解消したいと望むならば、もうお分かりのように行為そのものだけに焦点を絞って打開策を検討するのは得策ではありません。
実はジレンマをウィン・ウィンで解くための鍵は「共通の目的」があるかないかなのです。TOCを開発者したエリヤフ・ゴールドラット博士が物理学者であることはよく知られていますが、博士は、
科学の世界に対立はない、もし何かが対立していると感じるならばその対立を成り立たせていると感じる「前提条件」に誤りがあるからだ
と教えています。
しかしわれわれが住んでいるのは科学の世界ではなく現実の世界です。実際にどう問題解決を進めていけばよいのでしょうか。前回の記事で皆さんにご紹介したA〜D'の5つのボックスからなる図式「雲:クラウド」は、TOC思考プロセスという総合的な問題解決の手法のツールの1つです。「雲:クラウド」は別名「対立解消図」とも呼ばれ、ジレンマを解くための基本的なフレームワークなのです(図1)。
ジレンマが解けるか解けないかは、問題を定義するだけではなく、ジレンマを発生させている目的そのものが「共通」であると定義できるかできないかで決まるとお話ししました。逆に考えると、共通の目的があるときには、ジレンマは必ず解けるのです。この共通の目的とは具体的な状態を実現する場合もありますが、時には「夢」であったり「ビジョン」であってもよいのです。
ちょっとここでジレンマと「雲:クラウド」はどう違うか考えてみましょう。
ジレンマとは、「ある問題に対して2つの選択肢が存在し、そのどちらを選んでも何らかの不利益があり、態度を決めかねる状態」です。一方「雲:クラウド」の対立は、「ある共通の目的を達成するために、2つの行動の選択肢が存在し、その2つは同時に実現できず、態度を決めかねる状態」です。
この2つの定義は、一見すると「問題」と「共通の目標を達成するために」という表現の違いだけで、ほとんど同じように見えます。しかしこの違い、現実に問題を解決しようとすると天と地ほどの差があります。ジレンマを解くための鍵は「共通の目的」の有無といっても過言ではありません。
要するに、ジレンマに妥協的な対処をするということは、目前に対峙している行為そのものの是非や好き嫌いが焦点になり、2つの行為の間だけで善悪を判定したり、お互いの立場を考えて妥協したりする近視眼的な解決方法です。「雲:クラウド」では、もっと大きな共通の目的を達成できれば、まったく異なるやり方であってもよいと考えるのです。こうすれば、第3の道を含めてさまざまな解決策が考えられます。これは視点を1つ上げて全体を考えた解決方法なのです。
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