TOCは工場の生産性を改善するだけの手法にとどまらない。相反するニーズの板挟みに悩まされる組織の「ジレンマ」を解消し問題解決を目指す体系的なアプローチ「TOC思考プロセス」を紹介しよう。
さて今回は問題を芋づる式にとらえる方法をお教えしましょう。最初に質問です。
あなたは歩いているとき、前方の信号が赤だったらどうしますか?
「信号が青に変わるまで、立ち止まって待つよ」という返事が返ってきそうですね。しかし、なぜそうなのでしょうか? 「人間が赤信号で立ち止まる」という事実は一見極めて当たり前で無意識のうちに行動しているように思えますが、よく考えてみると、人それぞれ理由があることに気が付きます。車道側の信号が青なので、車が突っ込んでくると危険だから止まるという人もいるでしょう。また、赤信号を無視して横断をしてマナーの悪い人と思われたくない、と思った人もいるかもしれません。
ではさらに「なぜ?」を掘り下げてみましょう。「危険だから止まる」と考えた人は恐らく「危険なことをしない」ために立ち止まったのでしょうし、さらに考えるなら「自分の安全は自分で守る」ことが最大の理由かもしれません。一方「ルールを守らない人と思われたくない」と考えた人は「ルール違反をしない」ために赤信号で立ち止まっていて、最も重要なのは「社会的なルールを守る」ことなのかもしれません。皆さんはまた別の理由をお持ちかもしれませんし、置かれた状況で違う判断をする場合もあります。しかし、いずれにせよ私たちが普段何げなく赤信号で立ち止まっているのも、それぞれの理由があるのです。
皆さんは「因果」という言葉をご存じだと思います、物理や化学といった物理現象は、非常に複雑でも厳密に原因と結果の因果関係でとらえられます。自然科学における因果の考え方は、
すべての事象には原因があり、原因がなければどんな現象も起こらず、ある事象は一定の条件の下で、別の一定の事象を必ず引き起こす
ということです。
従来この因果の考え方は、感情を持った人間世界の問題解決に応用するのは難しいと考えられてきました。しかし赤信号の例でもお分かりのように、人間の日常行動は感情や直感だけでコントロールされているものではありません。大方の人間の行動は、その人を取り巻く事実や背景を明らかにすれば、かなりの確率で解明できるものです
TOC思考プロセスは、企業のみならずあらゆる組織の包括的な問題解決のために作られた考え方であり、具体的なソリューションです。TOCの開発者であるゴールドラット博士は、この「因果」の考え方を人間が介在する組織の問題解決に持ち込んだのです。
では、この因果の考え方を具体的にどのように問題解決に生かしていけばよいのでしょうか。TOC思考プロセスの中に「PMB」という考え方があります。
先ほどの赤信号の例でいえば、「赤信号で立ち止まるという行動」がB(Behaviors)で、「危険な行動をしない」「ルール違反をしない」という理由がM(Measurements)に相当し、「自分の安全は自分で守る」「社会的なルールを守る」がP(Policies)になります(図1)。
特に組織での問題解決を考えるときにはこの考え方は有効です。なぜなら、組織ではPが存在し、それに従う形でMが形作られ、Bを支配していると考えれば、簡単に問題の因果をたどれます。Pは組織の中に明示的に示されている場合も、しきたりや風土といったように暗黙知の中にある場合もありますが、いずれの場合でもPMBは一連のセットで存在するので、好ましくない事実(症状:B)が確認できれば、因果関係的にPを探し出せます。
問題の本質的な解決のためにはBに対して手を打っても対症療法にしかならないことが多く、Pに対する考え方を改め、Mを作り直さなければならないのです。
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