先に述べたグローバル展開でサプライチェーンとエンジニアリングチェーンがグローバルの複数拠点間に広がったことにより、各社とも大きな課題となってきたのが、設計変更指示書(以下、ECO)の増加とその対応業務負荷、タイムリーなECO処理とその徹底である。
開発設計・製造拠点が物理的にも組織的にも離れ、しかも使用される言語まで変わってしまい、これまで担当者間で気軽にできた連絡がECOという媒体を介するようになった。変更指示が多くなると、その管理も煩雑となる。どのECOが対応されていて、どれが対応されていないか分からない。ECOが徹底されていないがために、生産に当たって部品の誤手配、欠陥商品の生産という事態に至ってしまう(図1)。
ECOの反映は開発拠点、製造拠点にあるそれぞれのBOM(Bills of Materials:部品表)の同期化につながる。BOMがタイムリーに同期化されないと、製造工程の後戻り、不良品の発生など、コストインパクトの大きい問題に直結する。ECOの発信による修正が、拠点における担当者の作業負荷となっているところは多い。
マイクロソフトが家庭用ゲーム機のXboxを立ち上げたとき、毎週600件の設計変更指示がEMS(Electronics Manufacturing Service:電子機器の受託生産者)に飛んだという。単純に考えても、簡単に処理できる数ではない。
ただし、この対応の取り方によって明暗が分かれる。「不要なECOの発信を抑える」か「ECO処理能力を高める」のどちらかを優先で考えるかである。もちろん、無駄なECOは抑えるべきというのは当然である。そのためには、一度で分かるようにECOの記述内容を高める、後追い作業がないように吟味し、ECOの内容を充実させてから送るという施策はもっともである。
一方、開発力の強化という観点からすると、ECO処理をいかに多く、円滑に処理できるようにするかを検討する方が現実感は高い。ECO処理件数を高めるには、人手ではなく、PLMのITソリューションをうまく活用し、サプライヤーなど自社を取り巻くプレーヤーとの協力を強化し、開発・設計部門の海外シフトの検討といった施策を取っていくことになる。
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以上、昨今の環境変化に伴う製造業の基本課題について今回は述べてきた。具体的に各社はどのように対応しているだろうか。次回以降で「海外生産シフトに伴うPLM課題」「商品ライフサイクル管理におけるプロダクトDNA継承課題」「PLMシステム導入企業例と課題」「まとめと今後の課題」といった構成で紹介していきたいと思う。
近藤敬(こんどうたかし)
戦略事業部プリンシパル
ペンシルバニア大学ウォートンスクール(MBA)卒。政府系特殊法人、外資系メーカーマーケティング部、戦略コンサルティングファームを経て現職。各社の新規事業・新製品開発、マーケティング戦略、グローバルサプライチェーン構築、全社生産性向上などのプロジェクトに従事。主な著書(共著)に「サプライチェーン理論と戦略」(ダイヤモンド社刊)、「成功するeサプライチェーンマネジメント」(実業之日本社刊)、「CRM、SCMに続く新経営手法 PLM入門」(日本能率協会マネジメントセンター刊)など多数。
世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。
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