日本にPLMを紹介する先駆けとなった書籍「CRM、SCMに続く新経営手法 PLM入門」(2003年刊)を執筆したアビーム コンサルティングの執筆チームが、その後のPLMを取り巻く環境変化と今後のあるべき姿について、最新事例に基づいた解説を行う。
前回「PLMはTime to MarketからTime to Profit」では、PLM全般の課題について触れてきたが、今回は日本のハイテクセットメーカーを対象にして、昨今力を付けてきている韓国・台湾・中国の企業とどう相対していくか、というテーマに絞って話を進めたい。
1990年代前半に起きたアナログからデジタルへの技術の変化は、日本のハイテクメーカーにとって大きな転換点であった。デジタル化によって、日本の各企業がモノづくりの現場で長年積み上げてきたノウハウの有効性が失われ、製品のモジュール化が進展した。その結果、キーデバイスベンダから得たレファレンスを基に、技術的蓄積のないアジアの新興企業が市場へ容易に参入することが可能となり、ハイテクセットメーカーにとっての競争環境は大きく変貌することとなった。
デジタル化以降の時代の寵児(ちょうじ)は韓国のサムスン(Samsung)で、DRAM・LCDパネル・フラッシュメモリといったキーデバイスで圧倒的な市場シェアを獲得しながら、携帯電話や薄型TVといった最終製品でもグローバルプレーヤーとして確固たる地位を築いている。その一方、北米ではデル(Dell)のような企業が、サムスンのようなデバイスを提供する企業と、最終製品を組み立てるQuantaのような台湾ODM(Original Design Manufacturing)企業とをつなぐサプライチェーンを、効率的かつ効果的に管理する能力で、他社の追随を許さない差別化を実現した。
こうした状況の変化の中、日本のハイテクセットメーカー各社は激しいコスト競争を強いられて、彼ら自身もEMS(Electronics Manufacturing Service:受託生産)やODMの活用に踏み切らざるを得なかった。しかし、自社内で確立されたプロセスをODM企業との協業の中に持ち込むのは容易ではなく、新たなビジネスモデルに最適化したプロセスを構築できなかった企業も多かった。
一方で、CPUやDSPといったキーデバイスはアメリカのインテル(Intel)やテキサス・インスツルメンツ(TI)といった企業に押さえられ、技術革新も開発のプラットフォームを提供する彼らに左右されることとなった。その結果、日本の電機メーカー各社はアセンブラーの地位に甘んじることを受け入れざるを得なくなり、最も収益性の高い部分をインテルなどに牛耳られることで、厳しい事業運営を強いられることとなったのだ。
そうした苦境から脱却するために、日本の電機メーカーが選択したのは、垂直統合による「ブラックボックス化」であった。収益性の高いキーデバイスを内製化し、独自のキーデバイスを搭載することで最終製品の差別化を実現し、市場での競争力を回復する戦略である。デジタル化が進展する中でも容易に他社がコピーできないように、製造プロセスを含めたノウハウを徹底して自社内で囲い込むことで、製造装置納入ベンダを通じてのノウハウ流出を抑止し、他社にはうかがい知ることができないようにしたのだ。その象徴がシャープの「亀山モデル」であるといえるだろう。
しかし、この垂直統合モデルにも問題がある。現在キーデバイスの開発生産は莫大な投資を必要とする。キーデバイスでその時代の最先端を走り、差別化を図りたいのであればなおさらである。しかし、1990年代以降韓国や台湾、中国の企業の台頭により、グローバルなレベルでの市場シェアを失ってきた日本のハイテクセットメーカーにとって、自社製品の販売だけで、キーデバイス内製化の投資コストを回収するのは難しくなってきているのが実情である。その結果、「投資を回収するには、自社の最終製品の差別化を実現しようと開発してきたキーデバイスを他社に外販することが必要になる」という悩みを抱えることになった。これが榊原清則氏のいう“Integrator's Dilemma”である(注)。
注:榊原清則(慶應義塾大学 総合政策学部教授)のWebサイトを参照。
グローバルな市場では、サムスンをはじめとした韓国・台湾・中国の企業に追い上げられており、自社のシェアだけで投資を回収するのはもはや困難である以上、このジレンマを日本企業は克服していかなければならない。そのためには、どのような戦略を取り得るのか。
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