日本にPLMを紹介する先駆けとなった書籍「CRM、SCMに続く新経営手法 PLM入門」(2003年刊)を執筆したアビーム コンサルティングの執筆チームが、その後のPLMを取り巻く環境変化と今後のあるべき姿について、最新事例に基づいた解説を行う。
これまで4回にわたり「先進企業が目指すグローバル成長期のPLM」として、日本の製造業を取り巻く環境の変化と、その変化へのあるべき対応について述べてきた。ここで、もう一度、グローバル競争に立ち向かう日本企業が心得るべきいくつかのポイントについて整理したい。
「あなたが取り扱う情報量が1000倍になったらどうしますか」
これはグーグル(Google)の面接試験の質問である。普通の人なら、目を丸くするだろう。しかしながら、この質問にひるむようでは、シリコンバレーでは働けない。
情報量の1000倍というレベル感は、グーグルレベルのIT企業が普段接しているレベル感であり、コンピュータの処理能力の進化に合わせたITソリューションの威力である。
システムの進化は2倍、3倍では進まない。2乗、3乗と累乗で進む。これに対してシステム導入による業務効率化の効果は、多くて現行業務の20〜30%。これは既存業務のシステム代替にすぎない。
しかし、業務処理の生産性という観点ならどうだろうか。理論的に、完全にシステムで代替できる業務であれば、システムの処理能力速度に近くなるはずだろう。生産性の10倍、100倍、1000倍の向上は、人間の作業と考えれば驚異的であるが、システムのアップグレードと考えると、決して不可能なことではない。
金融の世界における情報処理速度の違いを見てみよう。東京証券取引所の売買システムは注文提出後から取引完了までの処理時間は2秒。これに比べ、ロンドン証券取引所の処理速度は東京の200倍の10ミリ秒。ニューヨーク証券取引所は1000倍近い数ミリ秒で処理できるという。これはシステムの世代交代を促進してきたかどうかで生じた差である。
製造業の世界に置き換えてみよう。需給変動の影響で、商品や部品が余ったり、足りなくなったりしたときの調整はどうするのか。物があるかないか、価格は適正か、対応すべき順番は、といった制約条件を見つけながらの情報処理は、人手に頼ると極めて時間がかかる業務である。このような業務に対するシステム投資効果は大きい。
これまでの地道な改善とコストダウンに加え、
こんな発想の転換が世界基準に挑む日本企業に求められる。
マイクロソフトが設計指示書(ECO)を週600件処理する一方、年間600件も処理できない日本企業もある。ITの処理能力に応じた生産性の向上を行わない限り、世界と対等の戦いを望むのは程遠い。
PLM(Product Lifecycle Management:プロダクトライフサイクル・マネジメント)は商品まわりのデータを一元的に集約し、都度、商品軸に沿ってデータを収集し、意思決定していくことである。PLMで求められているのは、「情報の明確化」と「速度」であることは、本連載でも再三述べてきた。その速度を決定付けるのが、システム処理能力に合わせたプロセス設計である。
世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.