ネズミも音楽のビートに合わせて体を動かすことを発見:医療技術ニュース
東京大学は、人間がビートを取りやすい120〜140BPMの音楽で、ラットも体を動かすことを発見した。また、原曲のテンポに対して、ラットの脳活動もビート同期することが分かった。
東京大学は2022年11月12日、人間がビートを取りやすい120〜140BPMの音楽で、ラットも体を動かすことを発見したと発表した。また、原曲のテンポに対して、ラットの脳活動もビート同期することが明らかとなった。
ビート同期とは、音楽に対して自然に体を動かし、ビートを取ることを指す。人間は120〜140BPMのテンポで最も顕著になるが、他の動物がビート同期運動を示すテンポについては知られていなかった。
今回の研究では、音楽を流した状態で、無線加速度計によりラットの頭部運動を測定。その結果、テンポ132BPMのクラシック音楽で、約半数のラットのビート同期運動を確認した。2足で立った姿勢では、目視できるほど同期運動は大きくなった。
音楽提示中のラットの頭部運動の例。加速度計で頭部運動の加速度を計測した。ビート同期運動は、加加速度(ジャーク。1秒間の加速度変化)で明瞭に記録できた[クリックで拡大] 提供:東京大学 情報理工学系研究科 生命知能システム研究室
このビート同期運動について、ラットと人間を比較したところ、どちらも速いテンポでビート同期運動は小さくなり、楽曲中の変化も似ていることが分かった。人間と小動物は身体特性が異なるものの、脳のダイナミクスは共通しているため、どちらも同じ脳内メカニズムで音楽のビートを処理していると考えられる。
また、ビート同期の脳内メカニズムを調べるため、音の情報を処理する聴覚野の活動を調べた。ラットの脳の聴覚野では、132BPMの音楽で最も明確なビート同期運動を示した。リズミックな音刺激でも、120BPM付近で同期運動が最も顕著となった。
この120BPM付近のビート同期は、音刺激後の約250ミリ秒に見られる順応特性によるものと判明。刺激に脳が慣れて反応を減少させる順応特性を利用し、ランダムな音系列に対する聴覚野の反応を予測したところ、音間隔の平均が200ミリ秒の音系列に最も高い予測精度を示した。
脳のビート同期を生む順応特性。A 脳活動の例。B 数理モデルで明らかにした脳の順応特性。C 実験データと数理モデルのビート同期[クリックで拡大] 提供:東京大学 情報理工学系研究科 生命知能システム研究室
なお、クラシック音楽の音間隔も平均200ミリ秒で、順応特性が音楽の鑑賞や作曲に関わっている可能性が示された。
人以外の動物でもビート同期運動を生む脳のダイナミクスが観察されたことは、その進化の解明につながる一歩となる。研究グループは今後、旋律やハーモニーなど音楽における他の特徴でも、脳のダイナミクスとの関連性を解明したいとしている。
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