ダイシング後には、チッピング、クラック、切断位置のずれ、切り残し、異物付着などを確認します。画像処理装置を使えば、多数のチップを短時間で検査し、不良を早期に検出できます。ここで不良を見逃すと、良品にならないチップへ接合材料や加工時間を投入することになり、後工程へ進むほど損失が大きくなります。
検査結果は、合否判定だけでなく工程改善にも使われます。欠けの大きさや発生位置、発生方向を継続的に調べれば、ブレード摩耗、冷却状態、位置ずれなどの異常を推定する手掛かりになります。近年では、画像認識による欠陥判定や、装置データを利用した異常検知、予知保全の導入も進みつつあります。
例えば、特定の列だけで位置ずれが増える、加工の後半ほど欠けが大きくなるといった傾向が分かれば、単発の不良ではなく、装置や工具の変化を疑うことができます。検査データを製品単位、ウエハー単位、加工時間の推移で見直すことで、不良が大量に発生する前に条件を点検できます。
検査は完成品を選別する作業ではなく、工程を安定させるための情報源でもあるのです。
量産現場では、同じ条件を設定しても、ブレードの摩耗状態、ウエハーの厚さ、テープの貼り方、装置内の温度などによって加工結果が変化します。装置が示す数値だけでなく、切断面や加工音、冷却水の状態など、小さな変化を捉えることが安定生産につながります。
私自身、生産設備の立ち上げや量産改善に携わる中で、装置の性能だけでは品質が安定しない場面を数多く経験してきました。設備の能力を引き出すのは、加工結果を観察し、原因を考え、条件を粘り強く詰める現場の技術者です。異常が不良として表面化する前に手を打てるかどうかが、歩留まりを左右します。
日本企業は、ダイシング装置に加え、薄型ブレード、高精度スピンドル、画像認識、ダイシングテープなど、加工品質を左右する周辺技術にも強みを持っています。これらの要素技術と、量産現場に蓄積された条件設定や保全のノウハウが組み合わさることで、高品質な加工が実現します。
ダイシングは、一枚のウエハーを独立したチップへ変える、後工程の出発点です。目立つ工程ではありませんが、切断、洗浄、乾燥、検査の一つ一つが、その後の組み立てや製品信頼性を支えています。
精密な装置、適切な加工条件、周辺材料、そして現場のノウハウがそろって初めて、ウエハーは高品質な半導体チップへ生まれ変わるのです。
次回は、ダイシングに用いられる「ブレードダイシング」「レーザーダイシング」「ステルスダイシング」という3つの代表的な加工方式を取り上げます。それぞれの原理や特徴、適用分野を比較しながら、製品に応じた加工方式の選び方と、ダイシング品質を支える精密加工技術について解説します。
森内眞
アルテム・イノベーション技術士事務所 代表
大学在学中に渡米し、MEMS開発に携わった叔父の下で4年間研究開発を経験。帰国後は、工作機械メーカーで横型マシニングセンタの開発設計や生産技術を担当した。1989年に独立してFA自動化設備のエンジニアリングセットメーカーを設立し、自動化技術や生産システムの知識を生かしてQCDマネジメントも行った。また、中国企業に招聘され、工作機械やコンベヤーチェーンなどの製造企業で自動化や工場改善、技術者教育などを指導した。2016年に技術士事務所を開設し、現在は国内外の製造企業で技術コンサルタントとして活動している。
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