本連載は、トヨタ自動車で16年間、生産技術/現場改善に携わった筆者が、食品工場で感じる「自動車工場では当たり前なのに、食品工場では当たり前ではないこと」を軸に、現場の生産性などに悩む食品製造業の経営者に向けて“問い”を投げかけ、改善のヒントを探ります。今回は、私が実際に改善した現場をご紹介します。
正直なところ、改善をやらずに済むなら、それほどいいことはない。誰だって、今のやり方でうまく回っているなら、わざわざ引っかき回したくはないだろう。
しかし世の中は変化する。原料も、現場の人も、お客さんの求めるものも、これまでと同じということはない。その中で何もしないということは、そのまま衰退を意味する。だから、やるしかない。ならば、どうせやるなら楽しくやりたい。私はそう思っている。
これまで3回にわたって、設備を止める思想や現場の目標値、設備について書いてきた。今回は、その先の話をしたい。
私は食品以外にも、さまざまな製品の工場で改善の手伝いをさせてもらっている。そして毎回思うのは、同じ製品でも改善の手法は同じにはならないということだ。
理由ははっきりしている。その会社の設備、メンバー、製品によって、取るべき形が変わるからだ。例えばメンバーの理解度が高い工場なら改善は一気に進むし、そうでなければ範囲を限定して、誰が見ても分かりやすいところから手をつける。同じ課題でも、打ち手はまるで違うものになる。いわば作品づくりに近い。だから「この製品だからこの改善手法」という唯一の答えはないと思ってよい。
蛇足になるが、製造業の世界では「みんなが使っている生産管理ソフト」というものがないといわれる。営業や人事の領域なら、お決まりのソフトがいくつかあるだろう。しかし製造現場は各社バラバラで、プロセスそのものが異なる。だから共通のソフトなどあり得ないのだ。
もしソフトが必要なら、私は自分たちで変えられるものをお勧めしている。ソフトに現場を合わせれば現場は混乱するし、現場にソフトを合わせようとすればすごいお金がかかる。まず現場を整えれば、システムは驚くほどシンプルなもので足りる。
話を戻そう。改善の結果は工場によって異なる。だが、事例を示すことがヒントになるのは間違いない。今回は、これまで書いてきたことをベースに、4つの事例を紹介する。
事例の前に、私が何のために現場に入っているかを改めて書いておきたい。
会社の目的はもうけることである。もうけるから従業員を雇えるし、新製品も作れる。もうけがなければ、会社は解散するしかない。ではそのもうけはどこから生まれるか。売り上げを上げるか、原価を下げるか、その2つしかない。
しかし売り上げはコントロールしにくい。販売個数は需要によるし、価格はお客さんとの交渉ごとだ。ならばどうするか。私は、自分たちでコントロールできる原価低減をまず実施してほしいと思っている。
原価低減といっても、内容量を減らしたり、品質レベルを落としたりする話ではない。工場の中のムダを取るということだ。工場の中には、人と物しかない。できるだけ少ない人と物で生産できれば、原価は下がっていく。
ここで誤解されやすいのだが、「少ない人」とは人切りのことではない。私はいつも人手が浮いたら、一番優秀な人を抜いてほしいとお願いしている。
たいていの社長は驚く。優秀な人を抜いたら現場が回らなくなるのではないか、と。逆である。一番優秀な人は、他の部署に行っても優秀に働ける。だからその人に改善を任せられる。そして抜けた穴には、残されたメンバーの中から次のリーダーが育つ。こうして人が育ち、新製品や新領域へのチャレンジが始まり、今度は売上アップも狙えるようになる。
原価低減は入口にすぎない。その先に人が育つ流れをつくること。それが私の考える改善である。
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