講演では、「電子部品メーカーの営業部」を想定し、AIオーケストレーション技術が現場でどのように機能するかのデモンストレーションを公開した。主要顧客の組み立てラインが部品欠品により停止しかけており、「製品を3日以内に300個追加で用意してほしい」という特急注文が発生したという設定だ。
まず、担当者が特急案件の発生を入力すると、コーディネーターAIが過去の対策データを参照し、各部門のAIへ状況の確認を指示する。営業AIは「該当顧客が重要度の高い得意先だが、過去の取引実績から数日程度の納期変更であれば許容されたケースがある」と提示。一方、生産管理AIは「即納可能な在庫は100個であり、残り200個の追加生産には6日かかる」と報告する。コーディネーターAIはこれらの情報を要約し、人間が承認すると、計画最適化エンジンが複数の計画案を算出する。
デモンストレーションでは、AI間の自律的なすり合わせの様子も示された。例えば、「追加残業なしで納期を6日とし、納品する案」に対して生産管理AIは許容したが、営業AIが「過去の許容実績である5日を超えている」として却下し、コーディネーターAIが新たな案を作成するよう指示を出した。
続いて、「追加残業6時間の対応により5日以内で納品する案」が提示され、今度は営業AIと生産管理AIの双方が許可を出した。しかし、ここで人間が介入する。顧客の要望が3日以内であるため、「せめて4日以内にしてほしい」と条件を追加し、提案を却下した。これを受けてコーディネーターAIが再度条件を調整し、計画最適化エンジンが再提案を実行。最終的に「追加残業12時間で4日以内に納品する案」を人間が承認し、製造実行システム(MES)へ変更データが反映された。
正木氏はこのプロセスについて、「AIが部門をまたぐ影響を可視化し、複雑な条件を整理することで、人は煩雑なデータ収集や調整作業から解放され、意思決定に集中できるようになる」と説明する。
全ての判断をAIに委ねるフルオートメーションではなく、AIに任せる範囲と方針を人が設定し、例外処理や最終承認を人が担うことで、安全性と納得感を担保する。業務が変わっても、AIエージェントの配役や接続先を変更するだけで、設備故障時の計画見直しや供給トラブル時の代替部品手配など、さまざまな現場課題に柔軟に対応できるという。
AIオーケストレーション技術の導入にあたり、日立はシステムの一括更新ではなく、段階的なアプローチを推奨している。正木氏は「まずは部門や業務単位でAIエージェントの活用を進め、対象業務を限定した初期検証を通じて、AIの判断基準や連携データ、人が関与する範囲を明確に定義し、徐々に部門間の連携へと拡張することが望ましい」と語る。
同社は今後、複数企業とのPoC(概念実証)を通じて、実際の製造現場における試験運用や機能拡張を進める方針だ。ERPやMESなどの既存システムとの連携を強化し、データの収集から現場への実行指示までをサイバー空間からフィジカル空間へと一気通貫でつなぎ、自律的なサプライチェーン運営を支援する体制の構築を目指す。
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