日立製作所は、熟練者の経験やノウハウなどをAIで形式知化し、設計ナレッジとして蓄積/活用する「設計ナレッジシステム」の提供を開始した。3D CADデータの設計ルール違反を自動チェックする機能も備え、設計業務の効率化や品質向上、技術継承を支援する。
日立製作所は2026年9月10日、熟練ノウハウを形式知化して設計業務の効率化と品質向上を支援する「設計ナレッジシステム」を、次世代AI(人工知能)ソリューション群「HMAX Industry」の新ラインアップとして、同年7月から提供開始したと発表した。
製造業において、熟練技術者の不足や技術継承が課題となる中、設計業務では熟練者の経験やノウハウ、技術文書、過去の不具合情報、3D CADデータなど、多様な情報を踏まえた迅速な判断が求められる。だが、それらの知見の多くは分散/属人化されており、設計ルールの活用や確認に多大な工数を要すると同時に、確認漏れによる手戻りや品質のバラつきが大きな課題となっている。
現在、こうした課題を解消する手段としてAI活用への期待が高まっており、世界の製造業におけるAI市場規模は2025年時点で76億米ドルに達し、2034年には1288億米ドル規模に拡大すると見込まれる。
日立製作所も、こうした課題の解決を支援するため、設計者に知恵とひらめきを提供する空間のコンセプト「DIW(Design Insight Workspace)」を推進。既に、熟練ノウハウを形式知化して品質保証業務を効率化する「品質ナレッジシステム」も提供している。今回、設計業務における効率化と品質向上を支援するDIWの中核ソリューションとして設計ナレッジシステムを開発し、HMAX Industryの新たなラインアップに追加した。
設計ナレッジシステムは、同社が長年蓄積してきたOT(制御/運用技術)の知見、3D CADデータから部品の形状の特徴を高精度に理解する独自の形状認識技術、AIエージェントを組み合わせることで、複雑な設計業務を幅広く支援するものだという。
最大の特長は、同社のノウハウを生かし、「穴の取得関数」「曲げの取得関数」「距離測定関数」などの独自の形状認識関数を、あらかじめデータベース化してシステム内に組み込んでいる点にある。これらの関数群と生成AIを連携させることで、設計者が入力した自然言語のルールから形状チェック用のプログラムを自動生成し、高精度な自動判定を実現する。
設計ナレッジシステムでは、AIエージェントが熟練者の経験やノウハウ、過去のトラブル/不具合情報などの技術文書を基に、暗黙知を形式知化するとともに、プロンプト不要でテキストや図表から設計ルールを自動抽出し、設計ナレッジとして一元的に蓄積する。蓄積した設計ナレッジは、チャットbotから自然言語で検索/参照できる。
さらに、蓄積した設計ルールから自動生成したプログラムと、日立製作所独自の形状認識関数データベースを組み合わせることで、3D CADデータを高精度に自動チェックし、設計ルールに違反する箇所を可視化する。これらの機能により、確認工数や目視検図の負担を大幅に削減し、不具合の見落としを防ぐという。また、違反箇所を可視化することで修正作業を迅速化し、手戻りの防止にもつなげられる。
過去のトラブルや後工程の知見を組み合わせて設計ナレッジとして体系化し、設計現場へ継続的にフィードバックすることで、組織の資産として蓄積/活用。さらに、運用を通じて得られた新たな知見を設計ナレッジへ継続的に反映することで、組織資産としての価値を高められる。
これにより、組織全体の設計品質の平準化と継続的な向上を実現するとともに、熟練者依存からの脱却や技術継承を支援し、設計者が高度な設計検討などの本質的な業務に集中できる環境を創出する。
設計ナレッジシステムの提供開始に先立ち、日立製作所子会社の日立ハイテクが、自ら最初のユーザーとして実効性を検証する「カスタマーゼロ」の取り組みとして、プロトタイプを用いて板金/製缶図面の検図作業を対象に実証テストを実施した。
テストでは、板金/製缶図面の過去3年分の検図記録に含まれる不備案件に対して、プロトタイプ版で設計ルールを抽出した結果、曲げ作業や打ち抜き/切断加工が困難な箇所、寸法不備などを自動で100%抽出した。不具合のある設計データが後工程に流出する回数を減らすなど、高い効果を確認できたという。
今後、日立製作所は、設計や製造、保守、品質保証の業務全般を網羅できるサービスを展開する予定だ。さらに、設計ナレッジシステムを段階的に高度化し、設計から製造、検証までを一貫して支援する基盤へ発展させる。設計者の操作や判断の履歴を活用してナレッジを自動蓄積/拡張することで、設計プロセス全体の高度化を支援することを目指す。
将来的には、設計データから製造BOM(部品表)やBOP(製造工程表)を自動生成する機能、類似形状の高速検索によるバーチャル試作検証などの開発/実装を進めていく予定だという。
同社は、これらを通じて、現実世界の事象をデジタル技術でつなぎ、自律的な判断/制御を実現するフィジカルAIの領域への展開も視野に入れ、設計から製造に至るプロセス全体のイノベーションを目指すとしている。
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