本連載では、水素を燃料として発電する「燃料電池」について、基本事項から技術開発動向までを、技術系の方でなくても理解できるように解説していきます。第5回では、燃料電池の耐久性に視点を置き、構成材料の最重要材料の1つである触媒の劣化が起こる要因について説明していきます。
前回の記事では、どのような方法で電極触媒の活性を向上させることができるのか、さまざまな例を取り上げました。ただし、活性が向上しても発電中にすぐに性能が劣化してしまうようでは、実際の燃料電池スタックには適用できません。
電極触媒の耐久性を向上させるためには、まずはどのような劣化要因があるのかを理解することが必要です。図1には、Pt/C電極触媒の耐久性を左右する主要な劣化要因を整理しています。Pt/CはPt粒子とカーボン担体の2つの材料で構成されているため、それぞれの劣化要因を考えることが必要です。
まずPt粒子の劣化について見ていきます。図1に示した通り、Pt粒子の劣化現象としては、カーボン担体上に担持されたPtナノ粒子が粗大化することが挙げられます。前回の記事で解説した通り、触媒の酸素還元活性はPt比表面積に依存します。従って、Pt粒子が粗大化することで比表面積が減少し、結果的に活性が低下してしまいます。
Pt粒子が粗大化する機構を解明するために、これまでに世界中で多くの研究者がさまざまな実験を行ってきています。実験条件によって結果が変わることもあり、十分に解明できているとはいえませんが、Pt粒子が粗大化する主な機構としては、(1)Pt粒子の移動/凝集、(2)Pt粒子の溶出/再析出、が考えられています。
図2には、Pt粒子の粗大化の様子を示しています。図2(1)には、Pt粒子が移動して凝集し、大きな粒子が形成される様子を示しています。Pt粒子が「移動」と書きましたが、カーボン担体表面を自由に長距離移動できるというわけではありません。
担持されたPtナノ粒子は、サイズが小さくなるほどエネルギー状態が高く不安定です。また、その場でじっとしているわけではなく、周囲の熱環境で振動しています。Ptナノ粒子とカーボン担体の間の結合力はそれほど強くありません。そのような状況下で、ごく近傍に存在しているPt粒子同士がある環境変化(例えば電位変動や熱など)で徐々に接近し、最終的に融合してしまうという理解になります。
後ほど触れますが、カーボン担体の腐食(酸化消失)もPt粒子の移動に関与していると考えられています。Pt粒子と接しているカーボンが変化することで、そこにとどまっていたPt粒子が少しずつ動き出すと想像してください。
Pt粒子の粗大化のもう1つの機構を図2(2)に示します。燃料電池の出力変動(電圧変動)が続くと、小さなPt粒子が電解質(イオノマー)中に溶解し、大きなPt粒子上に再析出してより大きなPt粒子が形成されるという現象が起こります。小さな粒子は不安定なため、ある条件下でより溶解が進み、大きくて安定な粒子上に析出するという、いわゆる「オストワルド熟成」(Ostwald ripening。「オストワルド成長」とも呼ばれる)という機構でPt粒子の粗大化が起こります。
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