東大とデンソーが10年間の長期産学協創へ、走行中無線給電の社会実装が中核に製造マネジメントニュース

東京大学とデンソーが10年間にわたる産学協創協定を締結。DWPT(走行中無線給電システム)をはじめ、これまで両社が特定分野で行ってきた共同研究の枠組みを拡大し、モビリティを起点とする持続可能な社会システムの構築に向け、中長期の視点で研究開発から実証、社会実装、人材育成までを一体で進めることを目指す。

» 2026年03月31日 06時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 東京大学とデンソーは2026年3月30日、東京大学の本郷地区キャンパス内で会見を開き、同年4月1日〜2036年3月31日の10年間にわたる産学協創協定を締結したと発表した。DWPT(走行中無線給電システム)をはじめ、これまで両社が特定分野で行ってきた共同研究の枠組みを拡大し、モビリティを起点とする持続可能な社会システムの構築に向け、中長期の視点で研究開発から実証、社会実装、人材育成までを一体で進めることを目指す。

会見の登壇者 会見の登壇者。左から、東京大学 生産技術研究所 准教授の本間裕大氏、同大学 理事・副学長の津田敦氏、総長の藤井輝夫氏、デンソー 代表取締役社長の林新之助氏、同社 経営役員の武内裕嗣氏、執行幹部の八束真一氏[クリックで拡大]

 今回の協創協定は「走るほど、満ちる社会へ:モビリティから広がる未来の社会価値」を共通ビジョンに掲げる。東京大学 総長の藤井輝夫氏は「これまでモビリティ、すなわち移動は、エネルギーを消費し、時間を奪う負荷と見なされてきた。今回の協創協定では、その常識を転換し、モビリティそのものがエネルギーを循環させデータを出力し、人々の暮らしの豊かさを高めるという新しい社会システムの実現を目指す。デンソーの優れた実装力に本学の多様な知を掛け合わせて、世界に広がるさまざまな困難を乗り越える新たな糸口を見いだしていく」と語る。

 デンソー 代表取締役社長の林新之助氏は「世界は大きな構造転換の中にあり、資源やエネルギー、環境、安心といった社会課題は一企業だけで解決できるものではない。加えて近年は、国際情勢の変化を背景にエネルギー安全保障の重要性が一段と高まっている。資源制約を抱える日本においては知恵と技術こそが最大の資源であり、それらを結集して新たな価値創出の仕組みを社会に実装していくことが極めて重要だ。本協定は10年という長期の枠組みだが、長期であることはゆっくり進めるという意味ではない。むしろ成果を段階的に積み上げ、社会と顧客に価値を届け切る責任を明確にするための期間である」と述べる。

協創事業の概要と10年構想 協創事業の概要と10年構想[クリックで拡大] 出所:東京大学

走行中無線給電システムの社会実装が取り組みの中核に

 協創協定の締結に合わせて、東京大学 生産技術研究所内にデンソー東大ラボを開設する。同ラボには、東大側ラボ長として同研究所 准教授の本間裕大氏、デンソー側ラボ長としてデンソー 執行幹部の八束真一氏が就任する。

 本間氏は「モビリティ産業の構造転換と社会課題の複合化により、移動、エネルギー、データ、都市インフラを一体の社会システムとして捉え直す必要が出てきている。今回の産学協創協定では、東京大学の『横断的な知』とデンソーの『知見と実装力』を組み合わせることにより、これまで取り組んできた個別の共同研究の積み上げにとどまらず、研究、実証、社会実装、人材育成を一体で進める狙いがある」と説明する。

産学協創協定の意義 産学協創協定の意義[クリックで拡大] 出所:東京大学

 協創協定では「エネルギー循環とデータ連携による社会価値の創出」「社会インフラと協調したモビリティの進化」「持続的な価値創造を支える技術基盤の強化と深化」「未来社会を構想・実装する高度人材の育成」の4つを重点テーマとしている。

産学協創協定の4つの重点テーマ 産学協創協定の4つの重点テーマ[クリックで拡大] 出所:東京大学

 1つ目の「エネルギー循環とデータ連携による社会価値の創出」で中核になるのが、DWPTとその最適配置に向けた数理最適化技術だ。都市だけでなく、高速道路を含む物流網などにおけるエネルギー供給とモビリティ利用を一体で考え、電力網への過度な負荷を抑えた社会基盤の構築に取り組む。

 DWPTは、車両が走行中に無線で電力供給を受ける技術であり、社会実装が進めば充電という行為から解放されることが期待される。モビリティはエネルギーを消費するものではなく、移動を通じて蓄積したエネルギーを社会に戻す「走る蓄電池」としてエネルギー循環を支え、分散型で開かれた新たなエネルギー利用モデルの構築につながる可能性がある。

 DWPTの研究開発は、東京大学 先端エネルギー工学専攻 教授の藤本博志氏が取り組んでおり、2023年10月に行われた柏の葉スマートシティにおける日本初の実証実験にはデンソーも参加している。また、東大側ラボ長の本間氏は、全国高速道路ネットワークにおけるDWPTの最適配置例を数理最適化技術に基づくシミュレーションで導出するなどしており、2025年10月にはデンソーと東京大学 生産技術研究所で「脱炭素モビリティ・インフラ戦略」をテーマにした社会連携研究部門を設置している。

DWPTとインフラ強調モビリティ DWPTとインフラ強調モビリティ[クリックで拡大] 出所:東京大学

 2つ目の「社会インフラと協調したモビリティの進化」では、交通事故や渋滞を構造的に減らすため、社会インフラとの協調に加え、安全保証やセキュリティ技術などを連携させ、安全かつ連続して状況判断が行えるモビリティの実現に向けて取り組む。

 3つ目の「持続的な価値創造を支える技術基盤の強化と深化」では、2025年4月に設置した社会連携講座「AI技術を活用して持続発展する次世代生産システム運用基盤の構築」に加え、カーボンニュートラルや交通事故死亡者ゼロの実現に向けた技術基盤の強化と深化に取り組む。具体的には、車載SoC(System on Chip)設計やソフトウェア、AI(人工知能)/半導体などの基盤技術の高度化を進めるとともに、製造/保守を含む運用基盤までを視野に入れた仕組みを構築し、持続的に価値を生み出す技術基盤の確立を目指す。

技術基盤の強化と人材育成 技術基盤の強化と人材育成[クリックで拡大] 出所:東京大学

 4つ目の「未来社会を構想・実装する高度人材の育成」は、ここまでの3つの重点テーマにおける研究/実証活動を教育の場として活用し、未来社会を構想し実装できる高度人材の育成に取り組む。学生から社会人までを対象に、研究、実証、制度設計をつなげて考え、社会実装まで担える人材を育成するとともに、産学協創の取り組みが持続する仕組みを構築する。これは、産業界と学術界が連携した実践型教育であり、研究開発の現場や社会実証の場を教育に取り込み、技術と社会を結び付けて考える能力を育てるとしている。

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