三菱電機と燈が目指す暗黙知のデータ化、現場で使えるフィジカルAI製造現場向けAI技術

三菱電機と燈は「協業に関する戦略発表会」を開催。AI活用による協業戦略について説明した。三菱電機の持つ現場の知見や制御技術と、燈の高度なデジタルツインやAI技術を融合し、フィジカルAIの実装を加速させる。

» 2026年03月18日 07時30分 公開
[長沢正博MONOist]

 三菱電機と燈(あかり)は2026年3月17日、東京都内で「協業に関する戦略発表会」を開き、AI(人工知能)活用による協業戦略について説明した。三菱電機の持つ現場の知見や制御技術と、燈の高度なデジタルツインやAI技術を融合し、フィジカルAIの実装を加速させる。

“爆速”で成長するAIスタートアップ、建設業からモノづくりへ

 燈は2021年2月に創業した、東京大学大学院工学系研究科「松尾・岩澤研究室」発のスタートアップ企業だ。AIを中心とする先端技術の研究開発、AI SaaSの提供などを行っており、デジタルツインを利活用する独自シミュレーション基盤の開発やAIエージェントの迅速な実装などを強みとしている。当初は建設業を対象にしていたが、現在はモノづくり産業全体へのDX(デジタルトランスフォーメーション)やAIの提供を目指している。は質実剛健、凡事徹底、爆速、圧倒的当事者意識、一致団結という行動指針があることでも知られている。社員は既に400人を超えており、半数がエンジニアだという。

 燈 代表取締役社長 CEOの野呂侑希氏は「われわれが開発するAIの特徴は、現場でまだデータ化されていなかったものをデータ化して、デジタルツインのような形でデジタル上に再現し、独自のモジュールを使ってシミュレーションをしたり、AIを訓練したりすることだ。現場からデジタルに持ち込み、さらに現場に戻すスピードや精度が最大の強みだ」と語る。

三菱電機の漆間啓氏 三菱電機の漆間啓氏

 三菱電機は2026年1月に燈への出資と協業に関する契約を締結した。三菱電機は2024年にデジタル基盤「Serendie」事業を発表しており、2030年度にSerendie関連事業で1兆1000億円の売り上げを目指している。三菱電機 代表執行役 執行役社長の漆間啓氏は、「社長就任以来、循環型デジタルエンジニアリング企業を目指してきた。そのために、データを重視しなければいけない。ユーザーに納入した自分たちの機器からデータを収集することが重要になる」と話す。

 三菱電機の機器は、制御領域を中心に製造現場だけでなく、電力や鉄道などさまざまな分野で導入されている。それらの“絶対に止めてはいけない”現場がどのように維持されているのか、万が一何かが起きた時にどのような対処がされているのか、といったノウハウが蓄積されており、それらをどのように活用するのかが次のステップになる。そこで必要になるのが、現場の変化を吸収し、安全に動くフィジカルAIだ。

三菱電機ではAIのCoE新設、自社工場内で燈とのPoCも進行

燈の野呂侑希氏 燈の野呂侑希氏

 既に三菱電機は、同社が長年培ってきた事業領域や現場での知見・ノウハウと物理法則を融合し、機器やシステム全体をより賢くする、安全で信頼性の高い独自のフィジカルAIとして「Neuro-Physical AI」を打ち出している。

「フィジカルAIは、現場の暗黙知などをAI化することで、人を代替できるようになる。Neuro-Physical AIはさまざまな技術の集合体であり、それらに現場の暗黙知を取り入れ、統合したものが目指すフィジカルAIとなる」(漆間氏)

 ただし、漆間氏は現状では3つの技術的な壁があるとする。サイロ化されたデータによる「データ化の壁」、未自動化領域でノウハウが人にたまっている「自動化の壁」、そしてロボット同士や人に対する「安全行動の壁」だ。これらの壁をSerendieとAIで乗り越える。

 三菱電機では2026年1月に、これまで部門ごとに分かれていたAI関連組織を統合した、AIのCoE(Center of Excellence)を新たに設けた。この新組織が燈との連携に当たる。漆間氏は「まず、新組織でわれわれのAIのビジョンをしっかりと示したい。その上で、三菱電機としてノウハウをためていくケースと、燈と一緒になって開発するケース、燈に開発を委託するケースがそれぞれ考えられる」と語る。

三菱電機の武田聡氏 三菱電機の武田聡氏

 また、三菱電機 専務執行役CDO 兼 CIOの武田聡氏も「燈はデジタルツイン、つまりサイバー空間でデータを学習させる技術、それをAIのアルゴリズムに落とし込む技術は非常に優れている。われわれの制御技術と、現場の暗黙知を含めた知見に、燈の技術を組み合わせることで、スピーディーにフィジカルAIが実現できる」と期待する。

 既に三菱電機の3つの工場で燈とPoCを進めており、工場内物流のAIオーケストレーションでは複数フロアにまたがって生産ライン間の搬送を担うAMRの稼働率を改善するなどの効果が出ているという。その他、AIエージェントを使った工場内データの構造化や、VLAによる人作業のふるまい行動学習に取り組んでおり、6カ月でのPoCの実施と事業化を目指すとしている。

 野呂氏は「匠のデータが残っている、質の高い製造現場が持つ日本は、フィジカルAIの領域で世界に打って出るチャンスがある。ただ、フィジカルAIは、それを載せる機器が必要になる。その点で三菱電機は最良のパートナーといえる。三菱電機の持つ機器を知能化することで、新たな工場の姿や働き方を模索したい」と意気込む。

左から三菱電機の武田氏、漆間氏、燈の野呂氏 左から三菱電機の武田氏、漆間氏、燈の野呂氏

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