高速塑性変形が開く、異材接合と軽量材料成形の可能性天田財団 助成研究成果発表会(1/2 ページ)

天田財団は、「OPIE'26」の併催イベントとして「2026年度 天田財団 助成研究成果発表会」を開催した。レーザープロセッシング分野と塑性加工分野の2分野で特別講演と助成研究成果発表が行われ、レーザー光源や高速塑性変形をテーマに、加工技術の新たな可能性が示された。本稿では、塑性加工分野の発表内容を取り上げる。

» 2026年06月08日 06時00分 公開
[長島清香MONOist]

 天田財団は2026年4月22日、パシフィコ横浜で開催された「OPIE'26(OPTICS PHOTONICS International Exhibition 2026)」の併催イベントとして、「2026年度 天田財団 助成研究成果発表会」を開催した。同発表会は、天田財団が助成した研究成果を産業界に広く紹介し、社会実装につなげることを目的とするものだ。

 本稿では、塑性加工分野の発表内容を取り上げる。塑性加工分野では特別講演に加え、発泡アルミニウムの成形や水中衝撃波を用いた成形に関する助成研究成果が紹介された。(レーザープロセッシング分野はこちら

自動車電動化でニーズ、銅とアルミの異材接合

 塑性加工分野の特別講演では、岐阜大学 教授の山下実氏が「高速摺動圧縮による銅C1100とアルミニウム合金A6061-T6の衝撃接合」と題して講演した。

 製品や部品の高機能化を背景に、複数の材料を適材適所で使い分けるマルチマテリアル化が進んでいる。特にモビリティの電動化に伴い、導電性に優れる銅と、軽量なアルミニウム合金を接合するニーズが高まっている。現状、銅とアルミニウム合金を特殊な溶接で接合する例はあるが、寸法変化や機械的特性の変化が課題となっていた。

 こうした背景から、山下氏は「高速塑性変形」による銅とアルミニウム合金の異材接合を試みた。

 高速塑性変形とは、材料に瞬間的に大きな力を加え、短時間で塑性変形させる加工現象である。通常の加工条件では得にくい大きな変形や局所的な材料流動を引き出せることから、異材接合や軽量材料成形などへの応用が期待されている。

 山下氏らは、銅C1100とアルミニウム合金A6061-T6の組み合わせで接合実験を行った。採用したのは、2つの材料の端面同士を向かい合わせ、その境界面で接合する突き合わせ接合である。板材の端面同士を押し当て、片側の材料を高速で滑らせながら、高い面圧で圧縮変形を生じさせることで、接合に必要な新生面を作り出すことを狙った。

 異材接合では、材料表面の酸化膜や汚れが接合を妨げる要因になる。そこで、高速な滑りと圧縮変形によって表面層を破壊し、新しい金属面同士を接触させることが重要になる。山下氏らは、テーパー角や表面状態を変えながら、どのような条件で接合が成立し、強度が高まるかを評価した。

 実験では、エネルギー源としてドロップハンマーを用いた。落下体を約5mの高さから自由落下させ、試験片に衝撃を与えることで、短時間で大きな変形を発生させた。山下氏らは、銅C1100とアルミニウム合金A6061-T6の板材を突き合わせ、接合部にテーパー形状を設けた試験片を用いた。片側の板材を固定し、もう一方を高速で押し込むことで、材料同士を界面に沿って滑らせながら、高い面圧で圧縮変形させた。

条件最適化で強度が大幅向上、予想外の減少も

 この接合で予想外の結果として確認されたのが、接合時にアルミニウム合金が箔状に外へ押し出される現象である。接合時の摩擦熱や変形熱により、アルミニウム合金が局所的に軟化することで、薄い箔として界面から外へ押し出された結果だという。

 山下氏によれば、当初はこうした箔状の排出を想定していたわけではなかったが、この現象が表面酸化膜の除去や新生面の形成に寄与し、接合性を高める要因になっているとみられる。高速度ビデオによる観察では、接合プロセスの開始からわずか5msで箔が出始めていることも確認された。

 接合強度は、継手効率で評価した。継手効率とは、弱い方の母材に対して、接合材がどの程度の強さを発揮したかを示す指標である。初期条件では、継手効率が高いもので80%程度に達した一方、条件によっては40%に満たないものもあり、接合強度にはばらつきが見られた。

 その後、表面粗さや表面研磨方向、テーパー形状を見直し、接合条件を最適化したことで、接合強度は大きく向上した。テーパーを強めて滑り量を増やした試験では、8本の引張試験片のうち6本が銅側で破断した。境界面で破断した試験片でも継手効率は88.9%を示し、最も高いものでは99.8%に達した。接合部ではなく母材側で破断したことは、接合界面が母材に近い強度を持つことを示している。

 山下氏は「テーパーを強め、接合境界をうまく整えることで、試験片形状に加工しなくても母材側で破断するほどの強い接合を実現できている」と述べた。

鉄とアルミの接合にも挑戦

 一方で、高速変形を利用するこの接合法では、接合時に摩擦熱や変形熱による温度上昇も生じる。そこで山下氏らは、接合後の試験片のビッカース硬さを測定し、熱影響の範囲を評価した。アルミニウム合金側では接合境界から1mm以内で硬さの低下が見られ、局所的な温度上昇による影響が確認された。

 ただ、その範囲は板厚5mmに対して20%以下にとどまった。銅側では境界近傍で硬さが上昇しており、大きな塑性変形による加工硬化が生じたとみられる。接合時に熱は発生するものの、熱影響を接合界面近傍に抑えられる可能性が示された。

 加えて、山下氏らは、接合した板材を最終形状として使うだけでなく、後加工に耐えられる接合素材として利用できる可能性にも着目した。そこで、接合後の板材を圧延し、接合界面が後加工に耐えられるかを評価した。

 接合材を1mm厚まで圧延した後に引張試験を行ったところ、接合境界の一部に開口が見られたものの、反対側では接合状態が保たれていた。条件によっては、圧延後でも高い継手効率を維持できることが示された。

 山下氏は「接合板を板厚方向の真ひずみが約−1.0になるまで圧延した時に、継手効率は最大で約99%が得られたということで、今後はこの接合法の安定化を進めたい。2026年は鉄とアルミニウムの接合にも挑戦している」と語った。

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