それでは、BEVで先行するBYDとテスラは、フィジカルAIカーやエンボディドAIカーにどのように取り組んでいるのだろうか。筆者の見方を述べてみたい。
BYDは、自動運転技術の研究開発を進めているものの、実用化には慎重な姿勢を示している。つまり、フィジカルAIに関しては技術開発を継続しつつも、実装段階では慎重な戦略を採用している。一方、UX領域については新興メーカーの動向を積極的に取り込み、追随する姿勢が見られる。
テスラは、自動運転技術において先行するだけでなく、ロボタクシー運用を通じてUX面での知見と経験を蓄積する戦略を採用していると考えられる。つまり、フィジカルAIカーでは最先端を走りつつ、エンボディドAIカーについては後追いながらも実践的なデータを蓄積していると位置付けられる。
このように、将来的にはフィジカルAIとエンボディドAIの双方を高水準で統合することが望ましい。しかし現状では、限られた人材/資本をどちらに重点配分するかという戦略的判断により、各社の方向性が分かれているのではないだろうか。
日本においては、自動車産業に関する話題の多くがパワートレイン技術に集中しており、「フィジカルAIカー」と「エンボディドAIカー」の競争と聞いても、遠い世界の話であり、無関係と思われるかもしれない。
しかし、ヒューマノイドロボット開発で世界の先頭を走る中国では、従来のように「自動車単独、もしくは自動車側からロボットを捉える視点」よりも、「ロボット側から自動車を捉える視点」が強まりつつあるように思える。テスラのイーロン・マスク氏が近年、自動車開発よりロボティクス領域に注力している点も、この潮流を象徴しているのかもしれない。ロボット開発の文脈から自動車を捉えると、そこには従来とは違った景色が見えてくる。
実際、中国では既に自動車とロボットが交錯する形で激しい競争が始まっており、日本の自動車メーカーもこの変化の波から逃れることは難しいと考えられる。十分な人材や資本を有する企業であれば、BYDやテスラのように自動車とロボティクスの両領域を同時に追求する戦略も選択肢となり得る。
一方で、AI分野に十分な人材や資本を投入することが難しい企業にとっては、中国の新興メーカーが採用しているように、まずはエンボディドAIカーに注力し、UXを起点として顧客価値を高めるアプローチが現実的な戦略となるのではないか。
このような状況を鑑みると、自動車産業は構造が大きく変容する転換点に差し掛かっていると思えてならない。
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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