1990年代前半のものづくり(その1)〜3D CADの黎明期〜ものづくりをもっと良いものへ(3)(2/2 ページ)

» 2025年12月18日 07時00分 公開
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「立体が見える」立体視

 前項で述べたように、3D CADが世の中に登場したころ、コンピュータ内部では3D形状が生成されているのに、それを表現する手段が2Dであることに残念さを感じていた。そこで、「立体に見える」のではなく、「立体が見える」方法はないかと考えた。

 文献を調べてみると、意外にもさまざまな方法があることが分かり、その中で、われわれの技術で実現可能で、かつ短期間で開発できそうな手法を見つけた。それが、図5に示す空間走査型ディスプレイだ。その原理はシンプルで、平面の2次元ディスプレイをその面と垂直な方向に往復移動(空間走査)させ、目の残像効果を利用して3次元表示を行うというものである。

空間走査型デイスプレイの原理(参考文献[1]144ページより) 図5 空間走査型デイスプレイの原理(参考文献[1]144ページより)[クリックで拡大]

 文献では、原理が説明されているのみで適用例はなかった。そのため、自分たちで原理に基づいて試作することにした。図6に、試作機とそれを用いた表示結果を示す。2次元ディスプレイには、発光ダイオード(LED)のパネルを使用した。

試作機と表示例(参考文献[1]143ページより) 図6 試作機と表示例(参考文献[1]143ページより)[クリックで拡大]

 実用化のめどが立ったため、少し大型の装置を作成することになった。図7に、その装置の外観と仕組みを示す。表示部は約10cm四方で、これを上下に約10cm駆動させている。これにより、10cm立方の空間に3次元像を生成し、北半球上の全ての角度から観察することが可能となった。駆動方法としては、回転運動を往復直線運動に変換する方式を採用した。これにより、定格600rpmでの長時間の上下運動が可能となっている。

大型装置の外観と仕組み(参考文献[1]144ページより) 図7 大型装置の外観と仕組み(参考文献[1]144ページより)[クリックで拡大]

 図8に、表示部の詳細を示す。表示部には、0.3mm角のLEDチップを1mmピッチで96×96画素実装しており、LEDのON/OFFを制御するためのPCB(プリント回路基板)と、計算機とのI/Oを担うPCBがある。これら駆動部からの信号線は、フラットケーブルによって外部に取り出され、計算機に接続される。表示アルゴリズムは、基本的にはテレビと同等の方式を用いた。

表示部の詳細(参考文献[1]145ページより) 図8 表示部の詳細(参考文献[1]145ページより)[クリックで拡大]

 図8の装置を用いて表示した結果のいくつかを、図9に示す。このように、1つの3次元像を北半球状のいずれの方向からも、また同時に複数の人が見ることができるというのは、新たな経験であった。また、動画の表示や、3次元マウスを用いたインタラクティブなゲームも可能である。一方、この装置で表示できるのはボクセルデータに限られるため、機械設計には向いていないと感じた。

表示例(参考文献[1]149ページより) 図9 表示例(参考文献[1]149ページより)[クリックで拡大]

参考文献:

  • [2]仲町英治|ヴァーチャルファクトリー 〜未来工場への挑戦〜|3.2.3 直接的設計手法|工業調査会(1994)
  • [3]大富浩一、亀山研一|残像型立体像表示装置の開発|可視化情報学会(1992)

医療への立体が見える装置の応用

 前項では、立体が見える装置について述べた。実現した装置は、強いインパクトを与える3次元像を提供したが、表示がボクセルデータに限定されるため、機械設計には向かない。

 一方、もともとボクセルデータを扱うのは医療分野である。ちょうどそのころ、脳外科の先生が本装置に興味を持ち、共同研究を行うことになった。その結果、手術シミュレーションに使えそうだということで、データを提供いただき、本装置で試してみた。その結果、手術箇所が3次元的にリアルに把握でき、従来の両眼視差による立体像と比べて、はるかに正確に手術箇所を特定できるとの評価を得た。図10に、3次元ディスプレイを用いた手術シミュレーションの概念図を示す。

手術シミュレーションの概念図(参考文献[1]150ページより) 図10 手術シミュレーションの概念図(参考文献[1]150ページの図版を基に作成)[クリックで拡大]

参考文献:

  • [4]仲町英治|ヴァーチャルファクトリー 〜未来工場への挑戦〜|3.3 医療とVR|工業調査会(1994)
  • [5]伊関洋|バーチャルリアリティと医療への応用|BME(1995)

 次回は、宇宙機開発とシミュレーションについて紹介する。 (次回へ続く)

⇒ 連載バックナンバーはこちら

筆者プロフィール:

大富浩一(https://1dcae.jp/profile/

1Dモデリングの方法と事例(日本機械学会)

日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。1Dモデリングはその活動の一つである。


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