前項で述べたように、3D CADが世の中に登場したころ、コンピュータ内部では3D形状が生成されているのに、それを表現する手段が2Dであることに残念さを感じていた。そこで、「立体に見える」のではなく、「立体が見える」方法はないかと考えた。
文献を調べてみると、意外にもさまざまな方法があることが分かり、その中で、われわれの技術で実現可能で、かつ短期間で開発できそうな手法を見つけた。それが、図5に示す空間走査型ディスプレイだ。その原理はシンプルで、平面の2次元ディスプレイをその面と垂直な方向に往復移動(空間走査)させ、目の残像効果を利用して3次元表示を行うというものである。
文献では、原理が説明されているのみで適用例はなかった。そのため、自分たちで原理に基づいて試作することにした。図6に、試作機とそれを用いた表示結果を示す。2次元ディスプレイには、発光ダイオード(LED)のパネルを使用した。
実用化のめどが立ったため、少し大型の装置を作成することになった。図7に、その装置の外観と仕組みを示す。表示部は約10cm四方で、これを上下に約10cm駆動させている。これにより、10cm立方の空間に3次元像を生成し、北半球上の全ての角度から観察することが可能となった。駆動方法としては、回転運動を往復直線運動に変換する方式を採用した。これにより、定格600rpmでの長時間の上下運動が可能となっている。
図8に、表示部の詳細を示す。表示部には、0.3mm角のLEDチップを1mmピッチで96×96画素実装しており、LEDのON/OFFを制御するためのPCB(プリント回路基板)と、計算機とのI/Oを担うPCBがある。これら駆動部からの信号線は、フラットケーブルによって外部に取り出され、計算機に接続される。表示アルゴリズムは、基本的にはテレビと同等の方式を用いた。
図8の装置を用いて表示した結果のいくつかを、図9に示す。このように、1つの3次元像を北半球状のいずれの方向からも、また同時に複数の人が見ることができるというのは、新たな経験であった。また、動画の表示や、3次元マウスを用いたインタラクティブなゲームも可能である。一方、この装置で表示できるのはボクセルデータに限られるため、機械設計には向いていないと感じた。
前項では、立体が見える装置について述べた。実現した装置は、強いインパクトを与える3次元像を提供したが、表示がボクセルデータに限定されるため、機械設計には向かない。
一方、もともとボクセルデータを扱うのは医療分野である。ちょうどそのころ、脳外科の先生が本装置に興味を持ち、共同研究を行うことになった。その結果、手術シミュレーションに使えそうだということで、データを提供いただき、本装置で試してみた。その結果、手術箇所が3次元的にリアルに把握でき、従来の両眼視差による立体像と比べて、はるかに正確に手術箇所を特定できるとの評価を得た。図10に、3次元ディスプレイを用いた手術シミュレーションの概念図を示す。
次回は、宇宙機開発とシミュレーションについて紹介する。 (次回へ続く)
大富浩一(https://1dcae.jp/profile/)
日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。1Dモデリングはその活動の一つである。
1980年代のものづくり 〜大学から企業での研究開発へ〜
エンジニアとしての50年を振り返って
モデリングとは何か? 設計プロセスと製品設計を通して考える
1Dモデリングとは? モデリングをさまざまな視点から捉えることで考える
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