本連載では、エンジニアとして歩んできた筆者の50年の経験を起点に、ものづくりがどのように変遷してきたのかを整理し、その背景に潜むさまざまな要因を解き明かす。同時に、ものづくりの環境やひとづくりの仕組みを考察し、“ものづくりをもっと良いものへ”とするための提言へとつなげていくことを目指す。第4回は「1990年代前半のものづくり」をテーマに、宇宙機器開発とこれに伴うシミュレーションについて紹介する。
連載第4回は「1990年代前半のものづくり(その2)」として、宇宙機器開発とこれに伴うシミュレーションについて紹介する。また、これに合わせて、宇宙機器のように地上とは異なる環境で使用する機器設計のためのシミュレーションについて考える。
注:「モノ」「もの」の表記について、本稿では「モノ:生産要素または経営資源といった手段」「もの:生産活動により付加価値を持った成果物」と使い分けて表記しています。また、「人」「ヒト」「ひと」の表記については「人:一般的」「ヒト:生物学的」「ひと:人間的(ものとの対比)」と使い分けています。
これまでは日常の生活で使用する機器の開発が主体であった。しかしながら、CAE技術の進展により、それまでになかった超大型機器も設計可能となった。その一つとして宇宙機器が挙げられる。
図1では、日常現象を中心に据え、横軸に大きさ、縦軸に重力の大きさを取っている。
例えば、超高層ビルでは、ドバイの「ブルジュ・ハリファ」が現時点で世界最高(828m)である。これは個人的な見解であるが、建造物の設計では建物の境界条件(地面のモデル)の設定が容易ではないと思う。それにもかかわらず、あまり精緻にはモデル化されていないように感じられる。この辺りは、機械設計とは設計プロセスが異なる点といえそうだ。果たして、理論上はさらに高い建造物も可能なのであろうか。
機械設計では非日常現象を扱う場合、現象を無次元化して扱う。例えば、流れの現象の場合は、
を使用する。通常、流体は水を想定することが多いが、高速増殖炉(FBR)では動粘性係数が全く異なるナトリウムを使用する。このように、使用流体がなじみのある水以外であることも非日常現象といえる。したがって、設計の際には注意が必要である。頭では分かっていても、形状のみを見て設計すると事故発生のリスクが高まる。
例えば、フランスの「スーパーフェニックス」というFBRでは、1987年に原子炉に隣接する燃料貯蔵槽で冷却材のナトリウムが約20t(トン)漏えいした。表向きの原因は構造物の強度不足とされたが、実際には、内蔵されている流体(ナトリウム)と構造物が関係する溢水による不安定振動が原因とされている。これは当時、ASME(米国機械学会)で話題となり、さまざまな現象解釈が行われた結果、上記の現象が主因であるという結論に達した。
似た事例として、1995年に日本の「もんじゅ」で発生した配管からのナトリウム漏えい事故がある。この事故でも構造物の疲労破壊が原因とされているが、その疲労破壊を引き起こした要因は、内部に挿入された温度計保護管の流体振動であるというのが、学会での一致した見解とされる。このように、無次元数の概念が現場で十分に理解されないまま設計されている可能性は否めない。
一方、半導体の微細化により、取り扱うスケールはnm(ナノメートル)レベルとなっている。これは原子のスケール(約0.1nm)と同程度である。この領域では、日常的に用いられているシミュレーションの範囲を超えてくる。筆者の推測では、半導体のナノレベルの設計では形状を作ることが重要であり、形状が確定すれば、いわゆる強度といった概念は不要なのではないかと思う。
さて、本稿で考える宇宙機器はどうなるだろうか。宇宙機器の大きな特徴は、打ち上げ時に地上の約10倍の重力加速度(単位:g)を受ける一方、宇宙環境下ではほぼ0gとなる点にある。すなわち、打ち上げ時の重力に耐えるとともに、宇宙環境下の無重力状態で機器としての性能を発揮することが求められる。
無重力状態では、いわゆる対流が発生しないため、冷却方法は地上とは全く異なる。また、構造的にも基本的に浮いた状態となるため、接合部における摩擦現象も異なってくる。そこで、宇宙環境下での設計について考える。
宇宙の話を学生にする際に必ず出す質問を図2に示す。
これは、地上で密閉タンク内に存在する流体が、無重力になるとどのような挙動を示すかという3択問題だ。この問題を理由も含めて正解できれば、流体をきちんと理解しているといえる。宇宙環境下の設計では、通常の機械設計に加え、以上に述べた項目(これ以外にもある可能性はある)を考慮する必要がある。
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