2024年12月に発足したパナソニックオートモーティブシステムズの新経営体制では、「キャッシュフロー改善に向けた筋肉質化」と「資本市場に評価される魅力的な成長ストーリー構築」を最優先する取り組みとして挙げている。
「キャッシュフロー改善に向けた筋肉質化」の取り組みは順調に進捗している。経営指標とするEBITDA(営業利益+減価償却費)からCAPEX(有形投資+無形投資)を差し引いた「E−C」について、中期目標では2027年度に2024年度比でE−Cを約3倍に引き上げる計画だが、2025年度については目標達成の見込みである。
施策は、販売/収益改善、直接材料費、VE(Value Engineering)活動、直接労務費/製造間接費、間接人件費、間接支出の6領域に分けて進めており、間接支出を除く5領域で目標を達成したとする。例えば、直接材料費の合理化では、部門横断連携によるVE活動の効果もあり、調達推奨部品の提案/導入など500件以上の施策を創出できている。また、直接労務費/製造間接費と関わるオペレーション効率化では、品質管理のサンプリング頻度を再定義して検査負荷を80%削減するなど、グローバル10拠点で行ったワークショップを通じて900件以上の施策を積み上げたとする。
一方、「資本市場に評価される魅力的な成長ストーリー構築」では、「コックピットHPC(高性能コンピューティング)」と「モビリティUX(ユーザー体験)」を2本柱とするコア事業戦略が中核となっている。今回の会見では、モビリティUXの領域における成長戦略について説明した。
モビリティUX領域は、自動車メーカーに供給しているさまざまなデバイスを扱うデバイス事業に加えて、同領域のコア技術に据える「ひと理解ロジック」に基づくシステムやサービスを提供するモビリティUX事業から構成されている。同領域の2035年度の事業規模は、2024年度比で1.5倍超となる約5000億円を目標に掲げる。永易氏は「成長をけん引するのは自動車メーカーだけでなくモビリティサービサーにも展開するモビリティUX事業だ」と強調する。
モビリティUX事業は、自動車に求められる安全、安心、快適のうち、まずは安心への貢献を目指す。「ADAS(先進運転支援システム)によって交通事故発生件数は減少しているが、今も完全になくすことはできていない。交通事故の発生要因は、ドライバーの油断や不注意、焦り、急ぎ、怒りなど個人の内面起因が80%を占めており、事故防止にはドライバーの状態把握が重要になってくる。これをモビリティUX事業によって可能にすれば、自動車の安心に大きく貢献できる」(永易氏)という。
モビリティUX事業では、ドライバーの状態把握に加えて車両外の状態も推定して交通事故発生の予兆を見いだし、危険な状態に陥ることを未然に防ぐことを目指す。その実現手段となっているのがコア技術となるひと理解ロジックだ。
ひと理解ロジックでは、カメラやマイク、バイタルセンサーなどのセンシングデバイスで得た情報を基に車内外の状況を推定してから認知/判断を行い、ディスプレイやスピーカー、シート、空調、照明などのアクチュエーションデバイスを用いてドライバーや同乗者に向けた対話/空間制御を行うことで運転支援を実現する。この車内外状況推定から認知/判断、対話/空間制御にかけて、文脈や意味を理解した高精度な制御を実現するのが「セマンティックコントロール」である。
セマンティックコントロールはさらに「シーンパーセプション技術」と「感情パーセプション技術」に分けられる。シーンパーセプション技術は、運転シーンの認知や個別警告案内、感情パーセプション技術はドライバーの状態検知と構成推定と関わるものと分けることができる。それぞれ技術開発も進展しており、シーンパーセプション技術では基礎生物学研究所との共同研究で新たな視覚特性モデルを、感情パーセプション技術では一般的な感情と実際の感情のギャップ分析による個性推定を実現している。「感情パーセプション技術は表情や目の動きを検知するだけではない独自のものだ。今後はこの個性推定の確度を高めていきたい」(永易氏)。
まずは、このひと理解ロジックによって交通事故発生の防止に貢献してモビリティUX事業を拡大していくが、自動運転技術が進展していくとドライバーが運転操作から解放されることにより快適に対する要望が高まってくる。永易氏は「ひと理解ロジックはドライバーだけでなく同乗者にも適用できる技術であり、自動車に乗る全ての人が快適に過ごすことにも貢献できる」と述べている。
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