最後に、対中国の輸出入についても見てみましょう。近年対中国の貿易が大きく拡大しており、特に輸入では最大相手国となっています(図3)。
対中国の貿易では、対米国と逆に大きく輸入が超過しています。
輸出も輸入も工業製品が大半で、特に「電気電子機器・機械・装置」の規模が大きいことが分かります。「自動車・その他輸送機器」はそれほど多くないようです。
「電気電子機器・機械・装置」の内訳を見てみると、「コンピュータ・電子・光学機器」の輸入が多いようです。この領域の日本からの輸出は20.8[10億ドル]であるのに対し、中国からの輸入は51.0[10億ドル]となっており、30.2[10億ドル]もの輸入超過です。
特にこの中でも、「コンピュータおよび周辺機器」(13.7[10億ドル])と「家電」(6.0[10億ドル])の輸入超過額が大きくなっています。PCや電化製品などは、既に国産よりも中国製が当たり前になりつつあります。家電量販店に並んでいる製品を見ても、「Made in China」の製品が大きな存在感となっています。消費者として接する製品ほど、中国製が増えていることが統計上でも確認できます。
また、対中国の場合は「食品・飲料・たばこ」や「繊維・木材・皮革製品」「家具・その他工業製品」でも輸入超過の度合いが比較的大きい傾向も確認できました。
今回は、日本の対米中貿易の詳細について、サンキーダイヤグラムという表現方法で紹介しました。項目ごとに輸出と輸入のバランスを一目で確認でき、興味深い傾向が読み取れたのではないでしょうか。
日本は全体で見れば、エネルギー/資源を輸入し、工業製品を輸出する加工貿易が主体となっています。ただし、その中でも存在感の大きな米国と中国に対しては、それぞれ異なる傾向が見えてきました。
対米国では、工業製品の輸出が超過していて、特に自動車と機械/装置の存在感が大きいことが分かりました。日本の製造業の中でも、特に強みとされる領域で、輸出が大きく超過していることになります。
一方で、コンピュータや家電製品では、対中国で輸入が超過している状況です。この領域では、大手電機メーカーの撤退や、存在感の縮小が報道されていますが、中国メーカーの台頭と、日本市場への進出の広がりが、統計的な輸出入のバランス面でも確認できたと思います。
今回はグラフ化していませんが、米国の対中国輸出入を見ても、輸入超過(約320[10億ドル])の多く(約192[10億ドル])を「電気電子機器・機械・装置」が占めていました。大きな投資が必要で、規模の経済を追うことで低価格競争に陥りやすい電気電子機器などは、新興国に取って代わられやすいことも示しているといえます
一方で、技術的な優位性があったり、製品としての成熟した価値を提供できていたりする自動車や機械/装置の分野では、現在のところ日本製品の強みが維持されているように見えます。
今後、海外との貿易が不安定化していく中で、それをむしろチャンスと捉えることもできるかもしれません。日本ならではの強みを生かし、再び世界の中での存在感を発揮できるような領域はどこなのか、もう少し堀り下げてみると意外な発見があるかもしれませんね。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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