例えば作業時間は従来、人がストップウォッチなどを使って計測していたが、工程の上方に設置したカメラ映像から作業者を認識し、実作業時間を自動計測する技術を開発した。人が計測した際との誤差は平均3秒以下で、「この工程のタクトタイムは200秒前後のため、人による計測のばらつきを考えれば、十分活用に値するデータになっている」(浜氏)。計測した結果は各工程、機種、作業者などに分けてグラフ化し作業全体の改善に生かした。
また、一目で生産ラインの各設備の稼働状態が把握できる画面を構築。各設備のセンサーから得たデータに分析を加えて、同工場の62設備、400以上の故障モードを予知する仕組みを実装した。例として、モーターのグリス漏れという異常検知に対しては、グリス漏れそのものを検知するのではなく、正常時のモーターの電圧/電流値から離れるほど異常が高いと判断し、担当者に通知仕組みになっている。
こうした取り組みの結果、2024年度実績では2019年度に比べ生産ロス時間を約60%削減した。設備故障、品質不良はそれぞれ約80%削減。確立した技術は海外拠点や新技術に応用していく。また、マスカスタマイズ生産に関しては、一直当たり30分以下の生産ロス時間を新たなKPI(重要業績評価指標)として、その運用を継続する方針だ。
ここまでの取り組みの中で、新たな問題、課題も見えてきた。
まず、新たな導入した仕組みは全て社内の技術者が内製したため、システムの維持管理やアップデートをそれらの技術者が行わなければならないことだ。そのため新規の開発に取り組む時間が捻出できなくなってしまった。これに対して、その仕組みを使う事業部のメンバーも一緒に開発、改修できる環境や体制を構築する必要性を挙げている。
また、設備の故障予知には導入、維持管理のコストがかかるため、予知保全は重要な故障への対応に留めて、事後保全への対応を増やすなどの使い分けおよび迅速な事後保全がより必要であるとする。
この他、海外を含めた各生産拠点のニーズを踏まえた仕組みが課題となっており、それに対して拠点ニーズの優先順位と汎用性、展開のしやすさも考えた仕組みの構築にも力を注いでいる。
グローバルに拠点が広がる中で、同社は今後に向けて人に依存している業務の標準化/形式知化を課題に掲げる。「ともすれば拠点ごとに改善などを進め、広がった兵たんが弱みになるリスクも抱えているが、先進の技術シーズとデジタルの強みなどを生かし、広がった兵たんをさらに強みに変える活動に着手している」(浜氏)。
その中の1つとして、生成AI(人工知能)を活用した設備故障診断支援システムの開発がある。生産拠点が広がり、必要となる設備保全技術者の数が増加しているが、自動化やデジタル化によって設備が複雑化していく中で、技術レベルの高い保全技術者の育成が追い付いてない。そこで、生成AIを活用し、経験の浅い保全技術者でも熟練保全技術者と同様の判断が可能になる故障診断支援システムを日立製作所と共同開発した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Factory Automationの記事ランキング
コーナーリンク