人手不足を背景にロボット活用が広がる一方、導入コストやシステム構築の難しさから、中小企業を中心に“未活用領域”が依然として残っている。こうした状況を打開すべく、川崎重工業や安川電機、ヤマハ発動機など7社が集まり、システムインテグレートの効率化と未活用領域の自動化を後押しする共創基盤づくりに乗り出した。その背景などを川崎重工らに聞いた。
国内の少子高齢化に伴う人手不足は深刻化しており、製造業をはじめさまざまな領域でロボットの活用が進んでいる。一方で、ロボットの導入コストや運用の技術的難易度がハードルとなり、ロボットの導入が進まない未活用領域(ロングテール市場)が存在する。
その中で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では委託事業として「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ロボティクス分野におけるソフトウェア開発基盤構築」を公募し、川崎重工業(以下、川崎重工)、NTTビジネスソリューションズ、ダイヘン、FingerVision、安川電機、ヤマハ発動機、ugoの7社が「SI効率化と多彩なロボットシステムの創出を実現する共創基盤開発」を提案し、2025年8月に採択された。
川崎重工業 精密機械・ロボットカンパニー ロボットディビジョン 技術総括部長の鷹取正夫氏は今回の取り組みの背景について、「大量生産する自動車や半導体など大企業の製造現場では、ロボットの使い方に慣れ、導入も進んでいるが、中小企業ではなかなか浸透していないことが大きな課題となっている。それに対して、ロボットやITにおける技術を持ち、事業を展開する7社が集い、ロングテール市場でのロボット導入を促進することが今回の狙いだ」と話す。
未活用領域でのロボット活用を促進するため、この事業では、「ロボットの機種や適用に関わらず使用できる共創基盤」と「ステークホルダーが集まるコミュニティでロボット導入・運用を支援できるエコシステム」の構築を目指す。そして、構築した共創基盤とエコシステムを活用したロボットの導入や運用の実証を進めていく。
「国内外のロボットメーカー、SIer(システムインテグレーター)、アプリ開発者などロボットに関わる全てのステークホルダーに、構築した共創基盤とエコシステムを提供する。それによってロボット業界が1つになって、ロボット導入を加速させていきたい。日本のロボット産業界をアップデートするという意気込みで取り組んでいく」(鷹取氏)
ユースケースとして、多品種少量生産が求められる工作機械製造現場の自動化、製造/サービス現場での共通課題であるピック&プレースの自動化、食品工場での弁当盛付(ロボット適用が難しい柔軟物の取扱い作業)などを想定している。
現状は、SIerがユーザーの課題、要望を一手に引き受けて現場ごとにロボットシステムを開発しているケースが多い。そのため他の現場への横展開などが難しく、コスト高にもつながっている。
「ロボットシステムを構築するセキュアな基盤を作る。その基盤の上に、システムインテグレーションの効率化に向けたツールやモジュールを共創していく。これによって産業用ロボットだけでなくサービスロボットでも導入や運用の効率化が実現できる、ここまでできて初めて技術面での課題に入っていける。ユーザーインタフェースの標準化と、ツールの種類の拡張は両立が難しいと認識しているが、基本的なツール群については標準化していきたい」(鷹取氏)
産業用ロボットのノウハウを持つ川崎重工や安川電機だけでなく、ITやサービスロボット、ロボットハンドなど幅広い事業者が参画している。その意義について強調するのは、ugo 代表取締役 CEOの松井健氏だ。
「日本全体でロボットの利活用が進んでいく中で、アプリケーションも多様化している。サービスロボットや協働ロボット含めた産業用ロボット、AMRを複数活用して全体最適をしていく時代になっている。システムインテグレーションの多様化という課題を乗り越えるためのフィールドとして、コンソーシアムに集まった7社が共創基盤を作っていくことに非常に意義がある」(松井氏)
ダイヘン FAロボット事業部 技術部 特機開発課 課長の坂原洋人氏も「主にAMR(自律型搬送ロボット)のアプリケーションを作り、工程間搬送やピック&プレースのアプリケーションを簡単に構築できるようにしたい。AMRは、ロボットやコンベヤー、エレベーターなどと連携させて1つのシステムになる。共創基盤があれば、導入までの時間を短縮できる」と語る。視触覚技術を用いた独自のロボットハンドを開発するFingerVision 代表取締役の濃野友紀も「従来の技術ではノーコード、ローコードでの多品種のピック&プレースは難しかった。当社のロボットハンドを活用することで、さらにロングテール市場の自動化に貢献したい」と意気込む。
なお、「2025国際ロボット展」(2025年12月3〜6日、東京ビッグサイト)の会場において、NEDOは「工場長サミット in 国際ロボット展〜AI for Industry〜」(同年12月5日)を開催。今回の事業について鷹取氏も登壇して紹介する予定となっている。
NTT-BSや川崎重工など7社が連携し、ロボット未導入市場に向けた共創基盤構築
GMOはAIとロボット産業の仲人を目指す、「ヒューマノイド熊谷正寿」も登場
警備/点検ロボットのugo――挑戦と成長を重ねる技術者集団の軌跡
力づくのイノベーションで変革起こす、ロボットの手に目を与える視触覚センサー
“首をなが〜くして”業務DXロボが設備点検、半導体工場で年内にも実運用へCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Factory Automationの記事ランキング
コーナーリンク
よく読まれている編集記者コラム