IoTで熟練技術者の技を盗め、生産技能伝承でダイキン工業と日立が協業技能承継(1/2 ページ)

ダイキン工業と日立製作所は、IoTを活用し熟練技術者の技能伝承を支援する次世代生産モデルの確立に向け協業する。まずは空調機器の戦略技能の1つであるろう付け工程のデジタル化を実現し、今後さらに対象技能を広げていく方針である。

» 2017年09月27日 09時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 製造現場における熟練技能者の不足は深刻化している。こうした状況をIoT(モノのインターネット)を活用して打破する取り組みが進み始めた――。

 ダイキン工業は2017年9月26日、日立製作所と協力しIoTを活用したスマートモノづくりに取り組むことを発表した。まずは空調機器の戦略技能の1つである「ろう付け工程」のデジタル化を実現し、滋賀県草津市の滋賀製作所で2017年10月から導入を開始する。

photo 握手する、ダイキン工業 テクノロジーイノベーションセンター長の米田裕二氏(左)と、日立製作所 産業・流通ビジネスユニット CLO 産業ソリューション事業部 産業製造ソリューション本部長の森田和信氏(右)

グローバルに84拠点の生産拠点を展開

 ダイキン工業は1924年創業の総合空調メーカーで、空調機器と冷媒を両方手掛けていることが特徴である。売上高は2兆円で全世界150カ国で事業を展開するなど、空調市場におけるグローバル大手企業である。海外売上比率は75%となるなど海外が成長する中、生産拠点を全世界に用意し、84拠点の海外生産拠点を保有している。

 こうした状況下で課題となっているのが「生産技能者育成の効率化」である。同社では以前から、グローバル人材への技能伝承を推進するために育成用のマイスター制度を展開。空調機の効率的な製造や品質保持に必要な技能を優先度に応じて「戦略技能」として設定し、グローバルへ展開。技能の底上げを図り世界同一品質を目指すという取り組みである。

photo ダイキン工業が展開するグローバル人材への技能伝承育成支援制度(クリックで拡大)出典:ダイキン工業

 一方、これらの支援を推進するために、国内工場のマザー工場化も推進。国内工場の果たすべき役割を「グローバルにおける生産・開発の統括」「生産力、開発力、品質力、調達力の向上とグローバル展開」「グローバルでの技能伝承と技術者育成」の3つと位置付け、生産技能向上に取り組んできた。

photo ダイキン工業における国内工場の役割(クリックで拡大)出典:ダイキン工業

 ただ、グローバルでの空調機器販売が伸長する中で、拡大するグローバル生産拠点において、有能な生産技能者の育成とその効率化が大きな課題となってきている。ダイキン工業 テクノロジーイノベーションセンター長の米田裕二氏は「日本でも現場の人手不足の問題などが生まれつつあるが、海外では技能者がなかなか育たないという課題やせっかくスキルを身に付けても根付かないなどの課題がある。『スキルを持った人を効率的に生み出していく』ということにも効果的なオペレーションが必要になってきている」と課題について述べている。

 こうした背景のもと、2020年までの中期経営計画である「FUSION20」では、重点戦略の1つとして「IoTやビッグデータ解析など先進技術を取り込み生産性を向上」することを挙げ、新たなモノづくりの在り方を模索してきた。この取り組みの1つとして今回、日立製作所と協業し空調機器の品質確保に重要な「ろう付け作業」で、技能やノウハウのデジタル化を実現し技能者育成の効率化を進める取り組みを開始することを決めた。

日立製作所のLumada

 一方で日立製作所は、IoTプラットフォームの「Lumada」を展開している。Lumadaは、データの統合、分析やシミュレーションから知見を得るソフトウェア技術などで構成される汎用性の高いIoTプラットフォームである。自社内にIT(情報技術)、OT(制御技術)、プロダクトシステム(製品)の3つを抱えていることが強みだとしている。日立製作所がLumadaの展開において、特徴的なのがソリューションベースの「協創」をベースとしていることだ。顧客の課題を聞き出し、日立製作所グループが持つITとOTとプロダクトを中心に課題解決モデルを創出する。それを実際に活用し得られたモデルを水平展開していくというビジネスモデルである。

 日立製作所 産業・流通ビジネスユニット CLO(Chief Lumada Officer) 産業ソリューション事業部 産業製造ソリューション本部長の森田和信氏は「さまざまなデータを蓄積し、その分析による知見でノウハウを作り出していくという取り組みを進めていく。モノづくりの課題は製造業の中で共通のものも多い。これらのノウハウをモデル化し、日本だけでなく世界レベルでN倍化できる技術を抽出して展開していく」とビジネス展開について述べる。

photo 日立製作所が考える製造業における協創の取り組み(クリックで拡大)出典:日立製作所

 森田氏は「日本の製造業にとっての強みは現場力だと認識している。現場から上がってくるデータをどう活用するかということを支援していきたい」と述べる。こうした取り組みの中で、進んだのが「ろう付け作業」のデジタル化である。

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