製造業向けの国内最大級のオンラインイベント「ITmedia Virtual EXPO 2025 冬」で実施された、基調講演「『止まらないラインは、最悪?』無線のアイコムが目指すスマート工場」の内容を紹介する。
アイティメディアは2月12日から3月14日まで、製造業向けの国内最大級のオンラインイベントである「ITmedia Virtual EXPO 2025 冬」を開催した。本稿では「『止まらないラインは、最悪? 無線のアイコムが目指すスマート工場?』無線のアイコムが目指すスマート工場」をテーマに実施された和歌山アイコム 工場長の山下恵司氏による基調講演の内容を一部紹介する。
和歌山アイコムは創業60年を超える大阪の老舗無線機器メーカー、アイコムの生産子会社に当たる。和歌山県内に紀の川工場と有田工場の2つの生産拠点を構えており、アイコムは創業以来、2つの工場による全量国内生産を貫いている。主力の有田工場は2万6000m2の敷地に3棟で構成されている。従業員数は235人(2024年4月現在)。
主に海外向け製品を生産する紀の川工場は1棟1フロアにまとめるなど効率化しており、43人(同)が勤務する。生産規模は2つの工場を合わせて年間約100万台に及ぶ。多品種少量生産が特徴で、月間に生産する無線機器の種類は約200種類を数える。
多品種少量生産を支えるのが、和歌山アイコムの生産方式「IPS(ICOM PRODUCTION SYSTEM)」だ。IPSの目的は生産コストを抑え、品質を向上し、「Made in Japan」を実現することにある。
IPSは「製造工程の改善」「効率的な生産」「品質異常への早期対応と解決」の3つの要素から成り立っている。これによりQ(高品質)、C(低原価)、D(短納期)を実現し、基本の柱である4S(整理、整頓、清掃、清潔)を徹底することで、国際競争に打ち勝ち、国内製造業の頂点を目指すことをコンセプトにしている。その基本思想は徹底したムダの排除という。
IPSの中にはコンベヤーストップシステムとインラインストップシステムがある。今回の講演では、コンベヤーストップ方式を解説した。
一般的な生産工程の管理サイクルは、異常の発見、原因の究明、改善、標準化という流れで行われることが多く、このサイクルを徹底することで品質の向上、効率の向上を図る。
これに対してIPSのコンベヤーストップシステムは、「常に何か改善の余地があるという視点でモノづくりを考えている」(山下氏)という。そのため、あえてラインに負荷をかけて問題点を抽出するという取り組みを行っている。
1日の稼働時間は8時間だが、8時間分の目標台数を7時間30分で達成させるタクトを設定する。そうするとどこかに歪(ひずみ)や無理が発生するが、そのどこかが問題点となり、改善のポイントとなるという考え方だ。
例えばある無線機1台を10人60秒で生産していたとする。1日8時間の稼働時間で製造できる台数は480台となる。IPSの考え方に基づき、30分の負荷をかけて、7時間30分で480台生産するとなると、コンベヤーのスピードは1台当たり56.25秒の設定となる。
60秒かかる仕事を56.25秒で行うとどこかに歪が生まれ、ラインはストップする。このストップが改善のタネとなる。どうすれば短縮が図れるか、さまざまな改善や自動化、ラインバランスの見直しを行う。時間短縮が可能となれば、ラインは止まらず、問題も発生しなくなり、さらにコンベヤーのスピードを速くする。その結果、これまでできていた作業ができなくなるので、そこが次の新たな改善ポイントなる。
つまり、1日30分コンベヤーが止まる程度のラインスピードで生産した時、歪が発生した場所には何か問題があり、その問題について原因を究明。そして改善、効果の確認というスパイラルを繰り返すことで、和歌山アイコムは品質、生産性を日々向上させている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.