無線機を製造する上では、作業遅れ/ミス、設備故障、部品切れ/不良、技術問題などさまざまな問題が発生し、ラインをストップする。各工程の作業者は、何か問題が起きた時、即座に手元にあるスイッチボックスのボタンを押してコンベヤーを一次停止させる。そうするとアラームが鳴り、作業者の頭上の赤いランプが点灯する。どこで問題が発生したか一目で分かるため、工程の現場管理者はすぐに認知し、駆け付けることができる。
管理者はコンベヤー停止後、原因をチェックする。問題点について対策を行った後、解除ボタンを押してコンベヤーを再稼働させる。解除スイッチは複数あり、ラインストップの原因により押し分ける仕組みとなっている。
スイッチボックスはホストコンピュータとつながっており、ストップを解除した時点で、いつ、どのラインが、どの工程で、何が原因で、何秒停止した、ということがリアルタイムに記録される。
記録されたデータを元に、毎日ライン毎に反省会議を実施する。そこでは、単なるその日の反省だけでなく、明日以降につながる改善策など同じ問題を発生させさないための施策を講じることにしている。なお、データは大阪本社からもタイムリーに確認できる。
こうしたことから「止まらないラインは最悪のライン」と見なしている。止まらないということは、現状に満足しており、改善がないことや作業に余裕がある、余分な人員を抱えており、効率的なラインでないことの証明となる。
さらにIPSを支える考え方として、「1つのラインは1つの工場」というものがある。同社の特徴である多品種少量生産を実現するために、1つのライン毎にQCDを考える必要があるとし、その他にもさまざまな施策を行っている。
生産の効率化を支えるのはIPSだけではない。同社では現在IPSの仕組みに自動化、機械化を組み入れ、進化したIPSである「INPS(ICOM NEW PRODUCTION SYSTEM)」の構築に取り組み、さらなる効率化、高品質化を目指している。
2016年には無線機の調整検査の自動化を行った。2018年にはイアホン端子、マイク端子の取り付け作業にロボットを導入した。さらに2019年には生産量の多い機種の本体組み立てをロボットだけで行えるようになった。現在はロボットを追加して2ラインとなっている。
その他にも工場内には7台のAGVが走行し、人の移動時間のムダを削減している。今では完全に無人で第1棟から3棟まで材料や基板、完成品の搬送を行っている。ただ、多品種少量生産が特徴であることから、ロボットで組み立てるような出荷台数が多い機種は限られていることから、同社では実際の効率を考えると、人間とロボットがそれぞれ得意な作業を行う協調ラインを構築することがベストだと考えている。
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