JAMSTECでは産業界に向けた利用制度を2005年度から提供している(図10)。当初は成果公開型の制度で、利用した企業はテーマや成果を公表する必要があった。その当時の採択課題は現在もJAMSTECのWebサイトで公開されていて、2006〜2015年度は以下に挙げる企業および団体が利用したことが明らかにされている。
社名からも推測できるように、気象や地震などに限られたテーマではなく、より広い意味での科学技術計算に用いられてきたことが分かる。
東芝、大成建設、東洋電機製造、川崎重工業、松尾製作所、塩水港精糖、パナソニック、公益財団法人 鉄道総合技術研究所、日本ゼオン、東京電力、日産アーク、テラバイト、住友金属鉱山、一般社団法人 日本自動車工業会、アドバンスソフト、日本電波工業、地圏環境テクノロジー、清水建設、計測エンジニアリングシステム、大同メタル工業
成果を公開しない利用形態を望む企業側の声に応えて、2007年度からはテーマや成果を公表する必要のない成果専有型の制度が並行に設けられ、現在は後者に一本化されている。また、事前評価制度として、200CPUリソースセット時間積、200VEリソースセット時間積、3カ月以内という条件で、地球シミュレータを無償で試用することができる。ジョブ投入などの操作や、ベクトルプロセッサを対象にしたプログラミングやチューニングに関して、JAMSTECの専門スタッフがサポートしてくれる。
利用料金は安価に設定されており、2025年時点では1CPUは27円/時間、1VEは24円/時間である(税別、別途間接経費あり)。ただし、GPU搭載ノードは産業利用には提供されない。※)
※)JAMSTECの中長期計画の都合上、2025年度の利用申請は終了しているが、2026年度に再開される予定。
最後にAI関連の取り組みを紹介しよう。
地球シミュレータが稼働を始めた2002年に比べて、AIを取り巻く状況は大きく変化した。2012年に深層学習を利用したAlexNetがAlex Krizhevsky博士らによって公開され、高い画像認識精度を実現できることが示され、さらに2017年にはTransformerの論文が公開され、生成AIが一気に広がった。
JAMSTECでは2016年頃から研究にAIを取り入れてきた。例えば、地球シミュレータで計算したシミュレーションデータを対象に、台風などの極端現象の検出や予測、ダウンスケーリングと呼ばれる高解像度化、グリッドスケール以下の現象のパラメータ化などにディープラーニングを適用してきた。
また、気象予測において、初期条件などをわずかに変化させたシミュレーションを複数回実行し、その結果を統計的に処理して不確かさを低減する(もしくは天候を確率的に予測する)「アンサンブル予報」に生成AIを組み合わせて、シミュレーションの実行効率の向上などが進められている。
さらに、地球シミュレータで得られたさまざまなシミュレーションをデータを学習させた大規模言語モデル(LLM)の開発にも取り組んでいる。このLLMは東京科学大学(旧東京工業大学)が開発した「Swallow」をベースにしており、例えば自治体の職員がプロンプトと呼ばれる指示を与えてリスクの評価や防災対策の立案に役立てる、といった使い方を想定しているという(図11)。
ES4ではVE搭載ノードとGPU搭載ノードが一つのシステム上に構築されているため、大量のデータを横移動することなく、シミュレーション、学習、推論を効率的に実行できる。また、これまで蓄積してきた膨大なデータを学習に使うことも可能だ。
今後、生成AIも活用しながら、地球温暖化や気候変動の予測精度の向上と、防災や減災につながるさまざまなデータの提供が進むことが期待される。
次回の後編では、JAMSTECで地球シミュレータの設計や運用を担当する計算機システム技術運用グループの上原均氏と、AIの活用を進めるデータサイエンス研究グループの松岡大祐氏のインタビューをお届けする。(次回に続く)
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