3Dプリンタの強みは、複雑な形状を自由度高く設計できる点と、ラティス構造により部位ごとに硬さを調整(剛性制御)できる点にある。例えば、かかと部分は硬めに、つま先部分は柔らかめにするなど、従来では難しかった設計を実現できる。
このシステムでは、ダッソー・システムズの「3DEXPERIENCEプラットフォーム」が活用されており、入力された足形データ(295点)と市販シューズ(サイズ含む)の情報を基に、アルゴリズミックデザインによって、快適性とフィット感を両立する中敷きの3Dモデルをリアルタイムで生成できる。アルゴリズミックデザインの実現には、3D CAD「CATIA」の「Visual Script Designer」を活用しているという。
肝となるラティス構造の設計にはシミュレーションが欠かせない。なぜなら線の形状や太さによって力学特性が大きく変わるからだ。だが、当初は要素数が多すぎて、計算時間がかかるという課題に直面。そこで、均質化法を使った数値代用モデルを導入したが、空気層を含むラティス構造では、空気の硬さが特性に大きく影響し、適切な結果を得ることができなかった。そこで、隣接ユニットセルの接触を考慮するモデルを導入し、現実に近いシミュレーションが可能になったという。「この手法により、線の太さを部位ごとに変えた設計でも、比較的高精度に圧縮特性を予測できるようになった」(小塚氏)。
2024年には、「パリオリンピック」に向けた取り組みとして、フランス・パリにあるダッソー・システムズ本社の敷地内に製造環境を整えた「ASICS Personalization Studio(アシックスパーソナライゼーションスタジオ)」を設置。スマートフォンで足を計測し、その場で解析して最適な中敷きを3Dプリンタで製造/提供する実証実験を実施した。そのときの手応えについて、小塚氏は「多くのアスリートに満足していただけたと思う」と振り返る。ちなみに、ASICS Personalization Studioの設置に向けて、バーチャルツイン技術を活用し、設備配置や作業者の動線、材料配置までシミュレーションしながらプロセスを設計したという。
小塚氏は講演の最後、「今後はパフォーマンス向上をさらに追求するため、機械学習やリアルタイム解析を取り入れ、より良い製品づくりを進めていきたい」と述べ、講演を締めくくった。
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