しかし、パフォーマンスを高めるだけでは十分ではない。アスリートの足形は一人一人異なるため、靴が足に合わなければパフォーマンスにも悪影響を及ぼす。特に長距離種目では、わずかなズレがけがや疲労の原因になる。小塚氏は「アスリートの足形は人それぞれ異なり、靴が足に合うかどうかはパフォーマンスにも影響する。そのため、足の形に合わせた製品づくりも重要だと考えている」と述べ、“パーソナライズ化”の重要性を強調する。
パーソナライゼーションに強みを発揮する3Dプリンタを活用すれば、アスリート個々の足形に合わせた製品を作ることが可能になる。しかし、現時点では靴全体を3Dプリンタで製造するには課題が多い。そこでアシックスは、まず中敷き(インソール)のパーソナライズ設計に着手した。
従来の中敷きは既製品やセミオーダー品が主流で、パーツを貼ったり切ったりして調整してきた。しかし、この方法では時間がかかり、設計精度も上げにくいという課題がある。こうした課題を踏まえ、個々の足形に合わせた中敷きを3Dプリンタで製作することを目指した。
まず、スマートフォンで足形を簡単に計測できるシステムを開発した。撮影した画像を基に3Dデータを生成し、クラウド上で解析する仕組みだ。元データは1万点以上に及ぶ計測ポイントを含むため非常に重く、そのままでは扱いが難しい。そこで、次元圧縮技術を用い、1万点以上のデータをわずか295点まで圧縮しても高い再現性を維持できる相同モデルを導入することにした。
また、立位姿勢で計測した足形には自重による変形が含まれる。このため中敷きの設計には無負荷状態でのデータ(無荷重足のデータ)が必要となる。アシックスは立位データを無荷重状態に変換するアルゴリズムも開発し、より正確な3Dデータを生成できるようにした。
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