ダッソー・システムズ主催の年次ユーザーイベント「SIMULIA Community Conference Japan 2025」において、アシックスは3Dプリンタを活用したパーソナライズされた中敷きの設計に関する講演を行った。
ダッソー・システムズは2025年9月16日、同社のシミュレーションブランド「SIMULIA」の年次ユーザーイベント「SIMULIA Community Conference Japan 2025」を東京都内で開催した。
本稿では、構造解析トラックに登壇したアシックス スポーツ工学研究所 アスレチック機能研究部 バーチャルヒューマン研究チーム 主席研究員の小塚祐也氏による講演「パーソナライズ製品の実現に向けたラティス構造の設計紹介」の内容をダイジェストで紹介する。
アシックスは1977年に、オニツカ、ジィティオ、ジェレンクの3社が合併して誕生した総合スポーツ用品メーカーである。社名は古代ローマの風刺作家ユベナリスの「アニマ・サナ・イン・コルポレ・サノ(Anima Sana In Corpore Sano)」に由来し、「もし神に祈るなら、健全な身体に健全な精神が宿ることを祈るべきだ」という意味を持つ。この理念を掲げ、アシックスは小さな子どもがスポーツを始めるときや将来、健康で長く生きることを支援することを使命に活動を続けている。
小塚氏が所属するスポーツ工学研究所は、兵庫県神戸市の山間部に位置する。敷地内には陸上競技用トラックやテニスコートなどの設備が整い、多くのアスリートが訪れて計測や試験を行うことができる。
研究所では、シミュレーションを活用しながらマラソンシューズ、陸上スパイク、サッカーシューズ、サンダル、スケートボード用シューズなど、幅広い製品を開発している。アシックスは設計理念として「ヒューマンセントリックデザイン(Human Centric Design)」を掲げ、人の体の動きを徹底的に分析し、その結果を設計に反映することでアスリートのパフォーマンス向上を目指している。
材料研究から製造までを一貫して行える点もスポーツ工学研究所の大きな特徴だ。靴底のスポンジ素材の配合研究から、職人によるミシン縫製での試作までを自社内で行えるという。近年では3Dプリンタを活用したデジタルモノづくりも進めており、手作業と先端技術を融合させた開発が実現している。隣接する陸上トラックでは試作したシューズをすぐに選手が試せるため、フィードバックを迅速に製品改良へつなげられる。
さらに、製品が実際に機能しているかを検証するため、動作分析を活用している。人がどのような動きをし、地面からどのような力を受けているのかを計測し、そのデータからシミュレーションモデルを構築する。マラソンシューズの開発では、このモデルを基に靴底を設計し、走行試験を繰り返すことでより高性能な製品を生み出している。
ランニングスピードは「ストライド×ピッチ」で表される。つまり、“1歩当たりの距離(m)”と“1秒当たりの歩数”の掛け算で決まる。小塚氏は「アスリートには、スピードを上げるためにストライドを伸ばすタイプと、ピッチを速くするタイプの大きく2種類があることが分かった」と説明する。アシックスではこの分析結果に基づき、それぞれのタイプに適したシューズを開発、提供している。
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