実例で学ぶ公差設計 〜穴と軸から不良率を推測する〜 : 若手エンジニアのための機械設計入門(8) (3/3 ページ)
今回のポイントは、公差の設定、確率統計の考え方、そして工程能力指数(Cp)でした。公差の設定は設計者が行うものですが、確率統計は数学や工学に基づく理論です。そしてCpは、机上の計算値ではなく、実際の現場データから算出されるもの であることを押さえておく必要があります。
では、そのCpを現場ではどのように求めるのでしょうか。以下に代表的な流れを示します。
(1)製品や寸法を決める 評価対象とする寸法(例:穴径、外径、厚みなど)を決め、図面に記載された規格(上限値/下限値)を確認します。
例:穴径10.00±0.10mm → 上限10.10、下限9.90
(2)実際にサンプルを測定する 現場で連続生産された製品を20〜50個程度抜き取り、ノギスやマイクロメーターなどで寸法を測定します。ここで重要なのは「通常の製造条件 」で測定することです。これにより、工程の実力を正しく把握できます。
(3)平均値(μ)と標準偏差(σ)を計算する 測定データから「平均寸法」と「バラつき(σ)」を算出します。
(4)Cpを計算する
今回の事例では、現場のサンプルから得られた工程能力指数と照らし合わせても、不良率はごくわずかで問題にはなりませんでした。ただし、常に同じ結果になるとは限りません。場合によっては不良が問題となるケースもあり、そのときは公差の見直しが必要になります。これこそが公差設計における「PDCA 」です。次回は、この公差設計のPDCA について詳しく説明していきます。 (次回へ続く)
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土橋美博 (どばし よしひろ)
半導体組み立て関連装置メーカー、液晶パネル製造関連装置メーカーを経て、「メイドINジャパンを、再定義する。」有限会社スワニーに入社。CIOとして最新デジタルツールによるデジタルプロセスエンジニアリング推進に参画する。
ソリッドワークス・ジャパンユーザーグループ(SWJUG)、ワールドワイドのソリッドワークス・ユーザーグループネットワーク(SWUGN)のリーダーも務める。
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