実例で学ぶ公差設計 〜穴と軸から不良率を推測する〜若手エンジニアのための機械設計入門(8)(2/3 ページ)

» 2025年09月01日 08時00分 公開

Cpの示す数値の意味は何か?

 Cpは、単に数式で求められる値にとどまらず、その大きさによって工程の安定性を判断することができます。では、具体的にどのような意味を持つのでしょうか。

  • Cpが高い → 規格幅に対してバラつきが小さい → 安定した工程
  • Cpが低い → 規格幅ギリギリ、あるいは狭い → 不安定な工程

 例えば、Cp=1.33の場合、約±4σの範囲が規格内に収まります。このときの不良率はおよそ0.0063%と非常に低く、量産においても安心できる水準といえます。

一般的なCp値のイメージ

 このように、Cpの値は工程の安定性や不良率の大きさを判断する基準になります。では、現場ではCpの値をどのように目安として考えているのでしょうか。以下に代表的なイメージを示します。

  • Cpが高い工程 → 安定しているので安心して量産できる
  • Cpが1.0ギリギリ → 基準は満たすが、不良が出る可能性もある
  • Cpが低い → ロットごとに品質がバラバラで、検査落ちが多い

 筆者は装置設備産業での経験が長いのですが、この工程能力指数(CpやCpk)は、製品品質の評価だけでなく、個々の設備性能を測る指標としても活用されています。

丸棒がパイプの穴に挿入できない確率を求める

 では、丸棒がパイプの穴に挿入できない確率を実際に求めてみましょう。

 パイプの内径と丸棒の外径は片側公差で与えられているため、まずは「中央値化」を行います。中央値化とは、片側公差を両側公差に変換して表現する方法です。

式3

 ここで、パイプと丸棒はいずれもCp=1で管理されていると仮定します。

式4

 この条件から、それぞれの寸法は以下のように正規分布で表されます。

  • パイプ:N(8.075,0.0252
  • 丸棒:N(7.925,0.0252

 次に、パイプの内径と丸棒の外径の隙間を考えます。平均値の差を計算すると、8.075−7.925=0.15となり、これを隙間の平均値μ=0.15とします。では、この隙間の分布はどのようになるでしょうか。ここで重要になるのが「分散の加法性」です。

分散の加法性とは何か?

 分散とは、バラつきの大きさを数値で表したものです。値が大きければバラつきも大きく、値が小さければバラつきも小さいことを意味します。

 今回の例のように、パイプの穴径にもバラつきがあり、丸棒の外径にもバラつきがある場合、この2つを組み合わせたときの「隙間のバラつき」は、それぞれのバラつきが合わさって大きくなります。このときに成り立つのが分散の加法性であり、“分散はそのまま足し算できる”という性質を持っています。

 パイプのバラつきをσa2、丸棒のバラつきをσb2とすると、全体のバラつき(隙間の分散)σc2は、σc2=σa2+σb2のように計算されます。

分散の加法性 図2 分散の加法性[クリックで拡大]

 分散の加法性を適用すると、隙間の分散は次のように求められます。

σ2=0.0252+0.0252=0.00125

 従って、標準偏差は√0.00125≒0.035となります。

 これにより、隙間の分布は以下のように表されます。

N(0.15,0.0352

 次に、隙間がゼロ(0)以下、つまり軸が穴に入らない場合の確率を求めます。

式5

 標準正規分布表(図3)を用いると、その確率はε=8.93×E-6(約0.000893%)となります。従って、軸が穴に入らない確率は非常に低いと考えられます。

標準正規分布表 図3 標準正規分布表[クリックで拡大]

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