有効作業分析法で改善され、有効作業のみで構成された作業の基準時間値は、最も小さいST(標準時間:Standard Time)の基礎になるもので、極限値に近い作業時間値といえます。このSTと実際に要した作業時間との対比が最も有効作業率が低く算出されますので、無効作業の低減活動につながっていきます。何が無駄であるか、定量的に示してくれるのが有効作業分析です。
トヨタ生産方式(TPS:TOYOTA Production System)で提唱されている無駄排除の概念として「七つの無駄」があります。この概念は、生産性向上のための重要な施策の一つです。「七つの無駄」は、それぞれが効率の悪化につながる要素として以下に示す内容で定義されています。これらの無駄を削減することで、作業効率と生産性を高めることができます。ただし、下記の「七つの無駄」は、無駄の所在を現しているだけともいえますので、無駄排除の改善につなげていくためには、やはり有効作業分析を行っていく必要があります。
非量産職場および量産職場における有効作業分析の実施事例に対する考察については下記のようなことが考えられます。また表5は、非量産職場における有効作業分析の結果を製品形態、作業形態で分類した具体的な実施事例を示したものです。
作業の無駄の判断は、ともすると技術水準や管理水準によって決定づけられるもので、改善したあとで、「あれも無駄作業であったか」と気付くこともあります。
今回取り上げた有効作業分析は、工場において実際の改善活動に適用して効果を上げることが最も重要で、各職場への適用で実績を積み、会社全体へ展開させていくことが大切です。
本手法におけるステップにおいて、要素作業別時間測定から有効作業率の算出までのデータ整理には比較的時間を要するので、さらに使いやすくする改良とツールの開発を行い、分析時間の短縮を図っていく必要があります。
本手法による改善活動は、一部の職場にとどめるのではなく、部門単位や全社を対象とした活動に展開を広げて、経営改善に結び付けていくことが目的です。今後、本手法を軸にして経営改善のための組織的なアプローチとシステムの開発を進める必要があります。
有効作業分析法を活用した結果、分析実施例から約20〜30%の作業時間の低減が見込めることが実証されました。
分析から得られた有効作業率の数値は、判断の甘さやUPTの測定で算出する有効作業判定に甘さが影響して、いくらでも変化します。従って、単に工場間や部門間の優劣の比較をしても何ら意味がないことに注意しなければなりません。この数値の高低に一喜一憂するのではなく、いかに改善に結び付けていけるかにその数値の持つ意味を見いだしていただければと思います。スタートでは厳しく判定して無効作業を発見することにより、革新的な作業設計につなげていってほしいと思います。
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有効作業分析法は、この手法を活用することによって、無駄作業の発見を容易にし、発見した無駄を排除して生産効率を上げ経営改善を行っていく取り組みです。そのためには、さらに「無駄作業を発見する目」と「無駄作業を排除する技術」が必要です。まずは、これら2つの技術を磨いていかなければなりません。
なお、「無駄作業を発見する目」は分析を担当する人によってその厳格さが異なります。基準となる考え方としては、「この作業の目的は何か」に徹することでしょう。例えば、「水が飲みたいと」思ったときの手順は、「グラスを取る→水道の蛇口を開ける→グラスに水を入れる→水道の蛇口を閉める→水を飲む→空のグラスを置く」となります。もう少し要素作業を細分化できますが、おおむねこのような作業手順となるでしょう。
これらの作業のうち、「作業の目的は何か」と考えると「水を飲む」ということになります。つまり、「水を飲む」作業だけが有効作業ということになります。「水を飲む」以外の作業が無効作業であるという判断になりますので、他の全ての作業が改善対象になるというわけです。
MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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