ここまで、データ統合のアプローチを入り口として、SoRとSoIという異なる考え方のシステムについて解説してきました。最後に、具体的にどのようにSoIを構築していくべきか、やや実践的な内容を紹介したいと思います。
まず、データ基盤を設計する際には、「利用者がどのような目的でデータを扱いたいのか」というニーズを丁寧にくみ取ることが重要です。業務部門が「何を知りたいのか」「どのような観点で分析したいのか」といった具体的な問いが明確でなければ、整備されたデータも宝の持ち腐れとなってしまいます。
また、データ活用のニーズは部署によって異なります。例えば、製品設計の現場では「コストと設計仕様の関係を回帰分析で明らかにしたい」といったニーズがある一方で、品質保証部門では「特定の仕様と関連した品質不具合がどれくらい発生しているかを可視化したい」といったニーズがあるでしょう。
このような場合、最初から全社横断の共通基盤を整備しようとするのではなく、まずは個別のニーズに応えるところから着手する方が近道です。そして、各部門のニーズに応える中で、共通処理のパターンが見えてきた段階で、初めて基盤共通化を検討し始めるべきです。こうした段階的なアプローチは、業務の実態に根差した無理のない基盤整備を可能にし、やがて全体最適へとつながっていきます。
実践的なデータマネジメントの第一歩としては、2つのレイヤーを備えた基盤を構築することが推奨されています。1つは、さまざまな業務システム、いわゆるSoRからコピーされたデータを未加工のまま格納する「データレイク」です。企業内に散在するデータを一箇所に集約する“貯水池”のようなものだとお考えください。もう1つは、特定の業務課題に対応するために整形されたデータを格納し、利用者にとって扱いやすくした「データマート」です。このような仕組みを整えることで、個別ニーズに柔軟に対応できるようになります。
こうした仕組みの中で、個別のニーズに対応し続けていると、やがて部門をまたいで共通する分析要求が見えてくることがあります。そのようなタイミングこそ、さらにもう一段階上のレイヤーとして「データウェアハウス」の構築を検討すべき合図です。データウェアハウスとは、部門を越えて汎用(はんよう)的に活用できるデータを正規化し、再利用可能な形で格納する共通基盤のことです。ここに整備されたデータは、意思決定の場面における“共通言語”として機能し、組織全体の知的基盤の強化につながります。
このように、活用ニーズを起点にした個別最適を積み重ね、そこから見えてきた共通処理を整理して全体最適につなげていくという2層構造でのアプローチこそが、複雑性の高い現代におけるデータマネジメントの本質です。これは、従来のSoRベースの情報活用とは決定的に異なります。SoRを起点にデータ活用を進めようとすると、「まずは全てのデータを蓄積すること」が出発点となり、使いやすさや可視化の観点は後回しにされる傾向があります。
もちろん、SoRにはSoRの価値があります。それは、業務記録の正確性や証跡性を担保するという点です。一方で、意思決定のための分析や洞察を担うSoIにおいては、目的に応じたデータの再構成や見せ方が求められます。例えば、PLMというコンセプトを実現するためには、部門ごとに異なる活用が求められると同時に、経営に示唆を与えるために異なる分析も要求されます。こうした点からも、SoRとSoIを分離しつつ、それぞれの役割を生かした連携が不可欠であるといえるでしょう。 (次回へ続く)
八木 雅広(やぎ まさひろ)
キャディ株式会社 エンタープライズ事業本部 カスタマーサクセス本部 本部長
クボタにて産業用ポンプの海外営業を担当し、インドとインドネシア市場において案件の開拓、契約、プロジェクトマネジメントに従事。その後、ボストンコンサルティンググループにて、製造業のお客さまとともに事業戦略の立案や構造改革を推進。モノづくり産業の一員として変革に携わりたいという思いから、2023年よりキャディに参画。
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