スポンジチタン廃材の再生技術が必要なワケスポンジチタン廃材の再生技術(1)(2/2 ページ)

» 2025年07月04日 08時00分 公開
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廃材から高強度チタンを再生する資源循環を目指し

 そこで著者のグループの研究では、この廃材を安価な鉄鋼添加材に利用する現状の一方通行型カスケードリサイクルを改めて、廃材から高強度チタンを再生する資源循環を実現すべく、廃材に含まれる不純物元素を活用したチタン材の新たな合金設計の確立を目指している。

 一般に、チタンの製造工程において不可避的に混入する不純物元素として、酸素、窒素、炭素、鉄などが挙げられる。各成分の含有量の上限値は、表1に示す日本産業規格(JIS)や米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials、ASTM)による規格において定められている。

表1 JISにおける工業用純チタン材の化学組成 表1 JISにおける工業用純チタン材の化学組成[クリックで拡大]

 いずれの元素も結晶粒界付近の濃化/偏析することでチタン材の破断伸び値が減少し、信頼性の低下を招くといった負の作用を有する[参考文献4]。一方で、酸素、窒素、炭素はα-Ti結晶内に、また鉄はβ-Ti結晶内にそれぞれ溶質原子として固溶して強度や硬さなどの機械強度の増加を促すことが報告されている[参考文献4]。

 例えば、高濃度の酸素を含むチタン材を溶解鋳造法で作製し、その引張強度特性を調査した結果を図3に示す。

図3 鋳造法で作製した高濃度の酸素を含むチタン材の引張試験結果 図3 鋳造法で作製した高濃度の酸素を含むチタン材の引張試験結果[クリックで拡大]

 縦軸は強度を、横軸はひずみ(延性)をそれぞれ示す。酸素含有量が増加するにつれて、ひずみは減少する傾向にあり、0.59重量%の酸素を含む試料では、延性的な挙動はほとんど見られなくなり、それ以上の含有量では脆性破壊を起こしている。それに応じて、引張強さも低下する。また、鉄(Fe)を含むチタン材の力学特性に関する既往研究を紹介する。少量の鉄を添加したチタン合金(Ti-2wt.%Fe)をアーク溶解法で作製し続く溶体化熱処理によりFe成分を均一固溶化することで強度と延性の両立が可能である[参考文献5]。

 しかしながら、Fe含有量が3%を超えると、硬質な針状マルテンサイト相の生成と脆性なω相の析出によってチタン材の破断伸びが著しく減少する。さらに、粉末冶金(やきん)法により作製した高濃度の鉄成分を含むチタン焼結合金においては、Fe添加量に伴ってβ相の生成割合が増加し、引張強さが増大するものの、延性の低下を伴う[参考文献6]。

 つまり、製法にかかわらず、チタンにFe成分を添加した場合、高強度と高延性の両立が困難であることが知られている。

 このようにチタンにおいて、不純物成分が規格上限値を超えて含まれると、その延性が大幅に低下するため、高強度化に効果的でありながらも添加元素として有効に活用できないのが現状である。

 解決策として、著者のグループでは、工程内廃材においてこれまで「厄介者」とされてきた鉄や酸素などの不純物成分を強化ユビキタス元素として活用し、延性を低下することなく、汎用チタン合金の強度特性を超える廉価な高強度チタンの開発を目標に掲げている。

筆者紹介

大阪大学 副学長(経営企画担当) 接合科学研究所 複合化機構学分野 教授 近藤勝義(こんどうかつよし)

大阪大学接合科学研究所にて、チタンやアルミニウムなど軽金属を対象に、原子スケールからマイクロレベルでの組織構造制御を通じて、従来は相反関係にあった強度と延性の高次元での両立を可能とする合金/プロセス設計原理や、不純物成分を利用した廃材の高度試験循環プロセスなどの構築を進めている。他方、もみ殻などの農業廃棄物からの高性能素材とエネルギーの同時抽出技術に係る実用化研究にも取り組んでいる。粉体粉末冶金協会副会長や国内外の多数の学術論文誌の編集員を歴任。


参考文献:

[1]Q. Feng, M. Lv, L. Mao, B. Duan, Y. Yang, G. Chen, X. Lu, C. Li: Research Progress of Titanium Sponge Production: A Review, Vol. 13, No. 408, p. 1-26 (2013)。

[2]岡部徹:電気と技術の塊:金属チタンの製造法,電学誌,Vol. 126, No. 12, p. 801-805 (2006)。

[3]H. Conrad: Effect of interstitial solutes on the strength and ductility of titanium, Progress in Materials Science, Vol. 26, No. 2-4, p. 123-403 (1981)。

[4]R.I. Jaffee: The physical metallurgy of titanium alloys, Progress in Metal Physics, Vol. 7, p. 65-163 (1958)。

[5]D.V. Louzguinea, H. Kato, L.V. Louzguinea, A. Inoue: High-strength binary Ti−Fe bulk alloys with enhanced ductility, Journal of Materials Research, Vol. 19, No. 12, p. 3600-3606 (2004)。

[6]真島一彦, 磯野貴宏, 庄司啓一郎:焼結Ti-Fe2元系合金の機械的性質に及ぼす(α+β)−焼入れの影響、粉体および粉末冶金、Vol. 34, No. 8, p. 349-354 (1987)。


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