実は、今回の調査における日本の回答は、産業別や企業規模別で見たときの両極端の調査結果が反映されている。
日本における産業別の「現在ロボットを利用している組織の割合」は、製造業が79%(世界平均71%)、自動車業界が74%(世界平均65%)と世界平均を上回っているのに対し、医療業界が23%(世界平均40%)、物流業界が16%(世界平均48%)と極めて低い水準になっている。また企業規模別では、大企業(従業員1000人以上)の78%に対し、小規模企業(従業員2~9人)は7%と非常に大きな格差も見られた。
サッチン氏は「世界的にも医療やカスタマーサービス、メンテナンスなど、人間との直接的な関わりが大きいタスクを扱うロボットの導入は高いとはいえないが、日本の医療と物流、両業界の導入率の低さは突出している」と強調する。
ただし、物流業界については、いわゆる「物流2024年問題」への対応もあって、倉庫などを中心に今後ロボットの導入が進むことが期待されている。一方、医療業界については「外科手術ロボットや処方薬のピッキング、病院の消毒システムなどを中心に徐々に浸透していくのではないか」(サッチン氏)としている。
今回の調査の日本における回答で際立っていたのが、現在ロボットを導入している理由のうち54%が「労働力不足」(世界平均27%)を挙げた点だ。世界平均の2倍という数字は、日本における少子高齢化の影響が極めて大きくなっていることを示唆している。
また、ロボット導入の最大の課題として68%が「初期コストの高さ」(世界平均47%)を挙げた。サッチン氏は「初期コストを重視するのは日本市場の傾向だが、ROI(投資利益率)を含めた全体コストを考慮した方がいいだろう。ロボットをサービスとして提供するRaaS(Robot as a Service)などを活用すれば初期コストは抑えられる。日本政府は中小企業向けにロボット導入を支援する施策も活用すべきだ」と説明する。
QNXは2025年3月、ロボットや医療、産業オートメーションなどの組み込みシステムの開発を対象に、初期コストを抑えられるパッケージとなる「QNX General Embedded Development Platform(GEDP)」を発表した。QNX GEDPは、QNXのリアルタイムOS(RTOS)と主要なミドルウェア、開発ツールの包括的なスイートを搭載した、モジュール型でスケーラブルな基盤ソフトウェアスタックだ。さまざまな産業の機能安全規格やセキュリティ規格にも対応している。
この他2025年1月には、非商用であればソフトウェア開発プラットフォームの「QNX Software Development Platform(SDP)8.0」を無償で入手できる「QNX Everywhereイニシアチブ」をスタートさせた。これまでプロプライエタリなRTOSプラットフォームのイメージが強かったQNXを、オープンソースエコシステムと連携させられるようになり、例えばROSを用いたロボットのソフトウェア開発がより容易になる可能性がある。サッチン氏は「機能安全やセキュリティが求められるミッションクリティカルな組み込みシステムの開発を促進していきたい。結果として日本国内でのロボット導入を進められるのではないか」と述べている。
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