筆者の経験では、産業機械設計の多くで、流用設計が行われており、そこで前述のような状況が頻繁に発生しています。
流用設計では、新しい製品設計に適応させるために、単純に部品のサイズを変えることも多くあります。流用元の設計は、既に製品として品質が確認されているため、“正しく流用すれば”、新たに設計された製品の品質も確保できます。また、設計期間の短縮にもつながります。
近年の流用設計では、3D CADを活用することで、変更したい寸法をパラメーター化し、容易に編集できるようになっています。これにより、Configuration(コンフィギュレーション)管理も可能となっています。ただし、流用設計を成立させるには、流用元の製品に対して品質確認が済んでいること、そしてその仕様を十分に理解していることが前提条件となります。
以上の内容を踏まえ、サイズ公差や幾何公差の取り扱いに関する課題を以下に挙げてみます。
これまで説明してきた通り、サイズ公差や幾何公差は、特別な設計意図がない限り、JIS(※2)で定められた一般公差が適用されることが多くあります。しかし、JISに基づく一般公差を安易に適用することにも注意が必要です。一般公差の適用に当たっては、次の点についてあらためて確認することをオススメします。
※2:「JIS B 0405:1991 普通公差-個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差」「JIS B 0419:1991 普通公差-個々に公差の指示がない形体に対する幾何公差」
※補足:サイズ公差についての記載……「JIS B 0420-1:2016 製品の幾何特性仕様(GPS)-寸法の公差表示方式-第1部:長さに関わるサイズ」
公差については、企業ごとに独自の公差テーブルを採用している場合もあります。加工会社によっては、部品図にサイズ公差や幾何公差が記載されていることで、見積金額が積算的に上昇するケースもあります。そのため、公差テーブルは、設計環境における公差の標準化を図るだけでなく、加工会社とあらかじめ取り交わしておくことで、「特別な公差ではない」と合意を得る役割も果たします。これにより、見積金額が“むやみに”上がってしまうことを防ぐことができます。
コストに関わる公差については、次のような話もあります。
公差を入れない設計をすべきだ。公差を入れるとコストが上がる
このような意見は、設計の必要性を無視したコスト至上主義に基づくものであり、設計の本質を捉えていないといえます。たとえ一般的な公差を公差テーブルに基づいて運用していたとしても、設計意図として特別な公差を設定せざるを得ない場合はあります。こうした意見を述べる人は、コストのみに着目しており、設計そのものを十分に理解しているとはいえません。一方で、設計者はコストと精度の関係を的確に見極めた上で、公差設計を行う必要があります。
今回は、公差設計の必要性について取り上げました。次回から、公差設計に必要となる考え方について紹介していきます。お楽しみに! (次回へ続く)
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